紗椰
MJとの意思疎通は、会話だけではほぼ不可能だった。メッセージでのやり取りと同じようにアプリの翻訳機能を使って、その画面を見せ合いっこしながら二人は会話をした。
MJはたこ焼きを頬張りながら、彰と会えたことがとても嬉しいと何度も翻訳機能で伝えてきた。嬉しいのは彰も同じだった。元々友人が多い方ではないし、就職してからは誰かと遊ぶこともほとんどなかった。多くの時間を一人で過ごしてきた彰にとっては、たとえ言葉の壁があろうとも天真爛漫なMJとの時間はかけがえのないものに思えた。それに加え、あと数十分後には通訳係…もといMJのもう一人の友人に会えるのだ。
彰がMJのスマートフォンで翻訳を見ていると、ちょうどメッセージの通知が来た。
「ちょっと早いけど、到着しました!」
彰達は、待ち合わせ場所へ向かった。駅の改札口で見つけたのは、小柄でゆるいパーマをかけたセミロングヘアの女性だった。こちらを見ると、遠慮しがちに手を振って、トコトコと駆け寄ってきた。小動物のような可愛さと上品さを兼ね備えた、素敵な女性だった。
彼女が、後に彰の妻となる紗椰である。
「はじめまして。MJからお話しは聞いています。紗椰さん…⋯ですよね? 今日はよろしくお願いします」
「はじめまして、紗椰です。私もMJからお聞きしています。彰さんですよね。よろしくお願いします。ちなみに、私は英語が苦手なので、彰さんに通訳を期待してます…⋯」
そう言って紗椰はMJと目を合わせてから、またこちらを見て笑った。
おかしい。聞いていた情報と違う。後で分かったことだが、MJは彰と紗椰の双方に、「もう一人友達がいるから、その人に通訳してもらえばいい」と言っていたのだ。彰と紗椰の頭上にはてなマークが飛んでいるのを見て、MJはいたずらっぽく笑った。
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