はじめての手作り弁当

シヨゥ

第1話

「なきゃないでどうにかなるもんだ」

 彼は開き直ったようにそう言う。

「いや。どうにかしないといけないからどうにかなるんだ。ないなりの80点ぐらいにはなるさ」

「100点じゃないんだ」

「そりゃあな。100点を取るのは難しいだろう? 良くて80点ぐらい。そう思わないか?」

「たしかに」

「だから金がなくて、技術も足りなくて、道具も足りてない。そんな佳奈子に作ってもらった弁当は80点」

「減点分の20点に含まれるのがそれかー……もっと練習しないと」

「まあ話は最後まで聞いてくれ」

「終わりじゃないんだ」

「もう少しだけ続くんじゃよ」

「なぜにおじいさん」

「それはじゃな」

 彼は咳払いをすると、

「ここに20点分の愛情が乗っかって、合計100点満点の弁当になる。なんてことを言おうと思ったからじゃよ」

 と言って頬を赤らめた。

「言わなきゃいいのに」

「正直な気持ちを伝えたかったの」

「そうかそうか。ありがとうありがとう」

「馬鹿にするなよ」

「馬鹿になんかしてないよ。そう言ってもらえて本当に嬉しいんだから」

 きっと私の顔も真っ赤だろう。

「とにかく食べてよ。食べてもいないのに100点満点と言われても信じられないから」

「分かったよ」

 そう言って箸を握る彼の手は震えていた。

「なんで君が緊張しているの」

「そりゃあな。初めての手作り弁当だし。緊張もするさ」

「大丈夫。毒は入ってないから」

「君が入れた毒で死ぬなら本望だ」

「はいはい。食べて食べて」

「つれないなー……分かったよ。それじゃあ、いただきます」

 意を決して唐揚げを口に運ぶ彼。彼の口からどんな言葉が聞けるのか。今から楽しみだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

はじめての手作り弁当 シヨゥ @Shiyoxu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る