さよなら私の大好きだったキリンさん、恋の出会いはある日突然に……

kazuchi

ボビーがライバル!?

「――って言葉、お嫌いですか?」


「……はいっ!?」


「出会いはいつも突然です……」


 一瞬、目の前の青年が何を言っているのか理解出来なかった、

 人懐っこそうな笑顔を浮かべて、青年は私の前に立っていた。

 思わず見上げるほどの背丈、日焼けした腕がTシャツに似合う、

 百五十センチのおチビな私と、どれだけ身長差があるんだろう。


「――分からなかったよ、大人になっちまって」


「失礼ですけど、人違いされてませんか、

 私はあなたのこと全然知りません!!」


 私、香月桜かつきさくら、十七歳の女子高生だ、

 海の見える公園は、休日の散歩コースなんだ。

 新手のナンパだと思った、自意識過剰でなく私は、

 公園で良く声を掛けられる、それもチャラそうな男ばかり、

 自分に隙があるみたいで、本当に嫌な気分になる。

 服装だって、ひらひらしたガーリーな物は避け、

 暑い日でも肌の露出を抑えているのに。

 以前、強引に連れて行かれそうになって、

 その恐怖の体験から学んだ対策がある。


「警察を呼びますよ!!」


 私はバッグに忍ばせた防犯ベルに手を伸ばした。

 ここで怯んじゃ駄目だ、この人はチャラそうじゃないけど、

 男なんて考えていることは皆、同じだ。


 あの人以外は……。


「警察を呼ぶって、いきなり言われるとショックかも、

 あと一点で免許停止だから、通報して欲しくないのもあるけど」


 免許停止って!? やっぱりろくでもない男に違いない、

 免許のない私には分からないが、普通に車を運転していれば、

 そんなに違反なんかしないだろう、お父さんなんか無事故無違反だ。


「め、免停って、どんな運転してるんですか、もしかして暴走族!?」


「いまどき暴走族って、参ったな、これでも正統派のつもりだけど」


 青年は困った表情を見せながら、頭の後ろに腕をまわし

 大きく伸びをした、ただでさえ高い背丈がより際立った。

 生成りの白いTシャツの裾が風に揺れる。


 ――まるでキリンみたい。




 何で、こんな時に思い出すの、幼い頃の大切な思い出を。

 わ、私、正体不明な男にナンパされてるのに!!


「……これでも分からない?」


「……えっ!?」


 青年が目を細めて、とろけるような笑顔を見せた、

 ひょろりとした背と同じ長い腕をこちらに差し出す。


「……約束守ったよ、


 ええっ、どうして私の幼い頃のあだ名を!?

 この呼び方を知っているのは、私のお兄ちゃんと、

 隣に住む幼馴染のお姉ちゃん、

 それ以外は、知らないはずだ……。


「……もしかして、あなたは?」


 差し出した青年の手のひらには、

 HONDAの刻印と羽のマークの入った鍵が載せられていた。

 それを見た瞬間、私は込み上げてくる感情に包まれた。


 彼、押山真司おしやましんじはにっこりと微笑んだ。

 子供の頃と、まったく変わらない笑いかた。

 意思の強そうな瞳、サラサラの黒髪、ちょっと口角が上がる癖

 私の大好きだった面影はそのままに。


 どうして、すぐに気付かなかっただんだろう、

 彼の後ろ、公園の駐車場に置かれていたのは、

 私が唯一覚えたバイクの名前、初期型のVT250F。


「……ここは泣く場面じゃないよ、さくらんぼ」

 

 彼の言葉に必死で涙を堪える、やっと会えた!! 

 あの頃、二人の間で交わした内緒の合言葉を呟いた。


「真司くん、あなたのバイクは何色ですか?」



「俺のバイクはブルーです……」

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