八、人間国の姫と獣人国の王子が一緒になること
八、人間国の姫と獣人国の王子が一緒になること①
人間国に戻ったシェルたちを待っていたのは、驚きの光景だった。どこから情報を聞きつけたのか、シェルの婚約をいち早く祝いたいと集まった国民たちの列が、王宮まで続いていたのだ。
ところどころで馬車が立ち往生してしまう場面もあったが、ゆっくりと馬車を進ませて王宮へと帰り着いた。
「
一緒の馬車に乗っていたヴァンが目を丸くしていた。それを聞いたシェルは、
「私も、驚いてる……」
そう返す。
しかしこんなにも国民総出で祝って
以前までの自分だったら、きっと獣人国王子であるゼールと婚約したからと言って、ここまで国民から祝って貰うことはなかっただろう。せいぜい、義務的な『おめでとうございます』と言う言葉を、国民代表のなにがしから貰う程度だっただろう。それが今や、自分の言葉で祝いたいと集まってくれる国民たちがいることが、シェルには
(それもこれも、私の考えを変えてくれたゼール様のお陰だわ……)
シェルは改めてゼールへの感謝を覚えるのだった。
そうして無事に王宮に
「人間国側が獣人国側に嫁いでは、獣人国の属国になってしまわないですかっ?」
「国王は本当に、シェル姫様を獣人族に渡すおつもりなのか?」
「そもそも世帯を持つ形態も、人間国と獣人国では違う。人間国の伝統である、一夫多妻制が揺らぐ可能性もあるだろう?」
こう言って国王に詰め寄る貴族たちは、どうやら内心、シェルの婚約に反対の様子だった。全ての人に理解して貰い、祝福される婚約は難しいのかもしれない。
シェルがそう思っていると、
「全ての質問には私が答えよう」
そう言って前に出たのは、人間国現国王である、シェルの父だった。父王はシェルとヴァンを安全な場所へと移動させると、
「お前たちは自室に戻っていなさい」
そう言って、紛糾する貴族たちの元へと単独で歩いて行ってしまった。その背中を見送りながら、
「父上、大丈夫かな……?」
ヴァンが心配そうな声を上げる。シェルはそんなヴァンを安心させるように笑顔を作ると、
「大丈夫よ。お父様は、強い国王だもの」
そう言ってヴァンの手を引いて、自分が住んでいる離れへと連れて行くのだった。
こうして貴族たちの反対の声はあったものの、国王が貴族の一人一人を説得し、今後の政策を考えて動いたお陰で、次第にその反対の声も鎮まってきた。
シェルはと言うと、国に戻ってからも精力的に活動を続けていた。積極的に町へ行き、人々の声を聞いていく。その中には、
「シェル姫様、婚約、おめでとうございます!」
そう、直接伝えてくれる国民も多くいたのだった。
「お姫様、王子様と結婚したら、もう会えなくなるの?」
ある貧しい町へ支援に行ったとき、シェルは幼い少女に質問された。少女があまりにも寂しそうな、今にも泣き出しそうな声で言うものだから、シェルは柔らかく
「私が結婚しても、この町のことは絶対に忘れたりしません、約束です。また必ず会いに来ますから、そんなに悲しそうな顔をしないで?」
シェルの言葉を聞いた少女の顔が、ぱぁっと明るくなった。それからシェルに小指を差し出すと、
「お姫様、ゆびきりげんまん!」
その無邪気な声に、シェルも思わず顔をほころばせて小指を差し出すのだった。
人間国内では、シェルが訪問する場所全てに人が集まりまさに『シェル姫フィーバー』と言った様相を呈していた。その様子をシェルは
しかし王侯貴族たちの説得も父王の尽力でなされており、国民たちの祝福ムードも高まっているため、このままゼールを呼んで、人間国内でシェルの婚約パーティーが開けると王族の誰もが思っていた。
そんなある日だった。
「号外――! 号外――!」
一つのニュースが人間国内を走った。その内容はシェルの婚約を祝っていた国民たちにとって、あまりにもショッキングな内容だった。
清廉潔白で純情だと誰もがシェルのその見た目と立ち居振る舞いから思っていたのに、そのシェルが既に、獣人国の王子によって傷物にされていると言う内容だった。更にそのニュースは悪意によって書かれており、シェルが自ら志願して、獣人国へ傷物になりに行ったとまで書かれていたのだ。
人間国中を走ったこのショッキングなニュースはすぐに人間国王宮にも届くことになり、もちろん、シェルの耳にも入ってきた。
「
そのあまりの内容にシェルは言葉を失ってしまう。
国民たちはシェルに裏切られたと思い、もはや暴徒になるのも時間の問題のようだった。
「一体誰がこんな酷い記事を書かせたの……?」
シェルは離れで独りごちてみるが、その問いかけに答える声はなかった。少なくともその内容から、この記事を書かせたのは王宮内の関係者であることは明確だった。シェルが獣人国へ『極上の
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