特段無益

@yatumi

短編某

いつもの日常、いつもの通学路。


世の中には日常がつまらない、と言う人はたくさんいる。

けれど僕にとっては、いや少なくとも今の僕にとってはそんなことはない。


いつもの高校への通学路、いつも上る坂、いつも見る信号、いつも見る景色。

そして、いつも見る顔。


「おはよっ。」

いつも見る幼馴染は今日も元気はつらつ。

とてもいい一日だ。


人間には恐ろしい慣れというものがあり、また時間の流れ方は感じ方で多少は変わるといってもだいたいいつも変わらない。


だからこそ日常をタイムラプスで撮ってみるとちょっとした感動を覚えるし、懐かしい感じがする。


けれど僕は、今の尊さが分かる。日常を切り取ってみなくてもこの美しさを愛でる事ができる。

これがなんと素晴らしいことか、それが理解できた時、僕の日常はとてつもなく貴いものになった。


「ねぇ今日の古典って...」

とりとめのない会話、ゆったり流れる時間、けれどそれがかけがえのないものであることを僕は知っている。


そして日夜、ちょっとしたことに意識が行く。

「あれ、×××、リップ変えた?」

「ちょー-!声が大きい!」

自分でもどこ見てんだよ自分とか思うけど、この瞬間の、それこそ一フレーム一フレームを生きる自分が幸せの中にいるなって感じる。


「もー。△△△、化粧禁止の校則警察がそこら中にいるんだから。もうっ、気を付けてよね~」

「あははっ、ごめんって。」


僕は楽しくて何でもないように軽く謝って見せるけど、この瞬間がどうしようもなく楽しい。

何でもないようにしてるけど、ほんとは、隣にいる幼馴染に注意を向けている。


(もうっ、△△△、私の事観察しすぎでしょ)

おい。聞こえてんぞ。


カクテルパーティー効果万歳。

僕の狙った声だけを掬い上げるの楽しすぎるぜ。


ほんと、幸せだわ自分、とか思う。

僕の特殊能力と言ってもいいのだろうね。


慣れない。楽しいことに。


どれだけやっても幼馴染との会話になれることは無いし、いつもの日常の中でもいつも新しい発見があることを僕は知っているから。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

特段無益 @yatumi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る