どこにでもある話

Kyju -キユ-

第1話

 道を歩いていたら、一羽の孔雀が目の前に現れて私の行く手をふさいだ。目に鮮やかなコバルトブルーの躯体からインドクジャクのオスだということがわかる。

 彼は腹部をふるふるっと震わせながら大きな羽根を立ち上げた。均一に配置されている目玉模様が一斉にこちらを見つめる。前後左右にゆっくりと動きながら、彼はたっぷりと自分の羽根を私に見せつけた。

 ——求婚されている

「もし。わたくしの妻になってくださるなら、その証しに飾り羽根を一枚抜いてください」

 彼は言った。

「ありがたいのですが、わたしはあなたの気持ちを受け取ることはできません」

 私が断ると彼はそのゴージャスな羽根をたたんで伏し目がちに去った。長い羽根は少し重たげに見えた。


 私は再び歩き始めた。

 しばらく行くと目の前に橋が見えた。橋の中ほどに雌牛がたたずんでいる。

 たわわな乳房を揺らしながら彼女が言った。

「わたしのすべての肉も皮も搾りだす乳も、あますところなくあなたのものにすることができます」

 ——今日はよく求婚される

「その豊かなミルクは、わたしではなくどうか仔牛に与えてください」

 私が断ると彼女の黒い眸は優しげに微笑んだ。どうか彼女の耳にしるしをつける人間が誠実でありますように。


 川を渡ってしばらく歩くと海が見えた。ただひたすらにまっすぐ歩いていく。ざぶざぶと波をかき分けて体のすべてを水のなかに沈めてそれでも進んでいくと、コブダイがいた。

 岩礁に座り、しばらくのあいだ大きな瘤を眺めていた。私の存在を認識しながら彼は何も言わない。

 追い出しもせず、近づきもせず、ゆっくりと時間が流れていた。ここにずっといたいと、ふとそう思った。私はコブダイに跪き言った。

「あなたのそばにずっと居てもよろしいでしょうか?」

 コブダイは微かに目を伏せ頷いた。


 空から光の金粉が降り注いだ。

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