第30話 終わり
「空くん、散歩ですか?趣味がおじいちゃんですね。」
幼馴染に一緒に出掛けることをせかされた、結果、一緒に散歩することになった。
「……文句があるんだったらついてこなければ良いと思いますよ。」
「だって、デートだよ。」
デートね。
「違いますよ。」
否定しておいた。
「私はてっきりおしゃれな店とか、それじゃなくてもデパートとか動物園とかに連れて行ってくれると思ってた。」
「はい、はい。そう言えば、ずっと気になってるんですけど。」
そろそろちゃんと聞いておく必要があった。星宮という苗字は、聞いたことがあったことを思い出したのだ。
「何?空くん。」
「いや、思い出したっていうか、たまたまかも知れないんだけどさ、君の両親ってさ、元々ここら辺に住んでて、最近転勤したとかじゃない?」
「空くん。おお、凄いですね。正解です。」
ああ、なるほど。いろいろ理解した。彼女の両親が、僕を信用している意味が分かった。
「僕の店の常連だったことあったりする。」
「そうです。正解です。私も最近知ったんですけどね。」
最近、常連のお客さんが引っ越した。転勤するって言っていた。それで『娘の高校がこっちだから、どうしよう』とか言っていた。『君なら、信頼できるから預けてもいいかな』とか言っていた。あれは冗談じゃなかったのか、
「なるほどな。」
「私、前世の記憶は生まれた時からあったんですけど。なんか、怖くて15年来れませんでした。だから、代わりに父に行って貰ったんです。調べてもらったんです。」
「それで。なるほど。でも、喫茶店は。」
あれ?おかしい、彼女は驚いていたはずだ。家が喫茶店になっていたことに。
「でも、喫茶店になっていることは教えてくれませんでしたけどね。ビックリしたよ。サプライズとか言ってました。」
「はぁあ、なるほど。」
さて、僕も一つ覚悟を決めることにした。
「「ねえ」」
何故か声が重なった。
「どうしたの空くん。」
「いや、君家から、出ていかない?」
ちゃんとしようと思う。ちゃんと向き合う事が必要だ。
「嫌ですよ。空くん。」
「聞いて、それで、18歳になってまだ運命とか言うならまた来てください。」
彼女が運命とかどうとか言うなら、それが本気なら。ちゃんと向き合うことにした。
「分かりました。……それまで、約束ですよ。楓ちゃんとくっつくとか許さないですからね。」
彼女は、そう言うと小さく笑った。
「約束しま……」
そう言いかけたとに昔見た光景と同じ状況になった。いや、知っているこれは、逃走中の人間と道を塞いでいる幼馴染。
嘘だ。
『どけ』
その男の声が響いた時には遅かった。
突き飛ばされた、幼馴染が再び突き飛ばされた。道路に突き飛ばされた。そして、最悪なことに、道路には、車がそれなりの速さで走って来ていた。
「ダメだ。」
僕は叫んだ。そして動いた。助ける、今度は絶対に助ける。
前は動けなかった。
道路で、立ちすくむ幼馴染を僕は突き飛ばした。まあ、これだと僕が車に轢かれるが、仕方ない。
ああ、痛いな。痛いどころじゃない。死ぬかもなこれ。
「空くん。空くん。」
幼馴染の叫ぶ声は遠かった。視界もよく見えなかった。
「妹は、楓のことは任せましたよ。一人にしないでください。」
死ぬ前に言わないと行けないことがある。
「空くん、喋らないで、今救急車呼ぶから。」
そんな、幼馴染の鳴き声耳に届き、落ちた涙が、皮膚に触れているのが分かった。
「後、修二には、幸せになれって言って。後、有咲さんにも」
あいつらは、大丈夫だろうか?
「空くん」
「楓さんには、君は大切な妹だった。大好きだったって」
楓は幸せになれるだろうか。姉や家族を失った彼女に僕は十分な愛情を渡せただろうか?
「空くん、遺言なんて要らないの。目を開けてよ。」
「18歳になったら会いましょう。楓」
彼女に残す言葉は呪いで十分だろう。もう、何も見えなかった。
「空くん。空くん。」
そんな幼馴染の声すら薄くなり、僕の人生はあっけなく終わった。
終わりは突然訪れた。
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