第14話 言いづらい事1

「空くん」

早朝は、彼女は早起きだった。いつも、このぐらいに起きれば朝焦らなくて良いのって思うが無駄だろう。


「えっと、何ですか?」


「ああ、いやその。今日の夜ご飯は、カレーが食べたいな」

彼女の様子は可笑しかった。目が泳いでいた。少なくともカレーが食べたい話では無い気がした。


「えっ、ああだったら食べに行きますか?」

でもカレーは少し食べたい気分だったので話には乗った。


「えっ」

彼女は目をぱちぱちとさせていた。


「うん?いやだって材料無いし。それに近くにインドカレー屋さんあるし」

そう、カレー屋を近くで見つけたのだ。自分から1人で行く程のやる気は無いが、ちょうど良い機会だ。


「……わ私は家庭のカレーが食べたいの。空くん。」

この前の焼肉は出かけたがってたのに。


「それなら材料を買わないと行けないから、買い物行く時間無いし。だったら」


「私が買って来るから帰りに材料を教えて。」

何故家でのカレーにこだわるのだろうか?


「そう、それなら明日」


「大丈夫です。自腹で買って来るので」

彼女は真っ直ぐなんかこっちを見て来た。今日、家のカレーがすごい食べたいんだ。なんて訳も無いので何かがあるはずなのだ。


「…それで本当に言いたい事はなんですか?」

それに昔幼馴染ともこんな事があった。いや、彼女は違うけど、今回はたまたま同じ反応をしていただけだ。


「えっ、その。えっ。」


動揺しすぎだと思う。

「ああ、分かった。親にバレたんですか?勝手に家を出て」

それだったら彼女が居候している生活も終わりか。彼女の両親に何言われるか分からないけど、でも僕悪くないしな。それだったら、さみし…


「ああ、それは大丈夫です。親は何の心配もして無いですから?何なら電話しますか?」

彼女は落ち着いて普通にそう言った。あっ、これじゃない。電話…それはなんか怖いので却下だった。


「……良いです。何で知らない人の家に…」


「皆まで言わないでください。空くん。大丈夫です。親とはちゃんと高校退学にならないようにって約束してるので」


「そう言う問題では無くて。」


「ああ、そう言えば空くんなんか欲しいものありますか?」


「何で?」

話が急に変わった。


「うちの両親に、ご飯全部作って貰ってるって言ったら、仕送りしたお金でなんか買ってあげなさいと食費はちゃんと払いなさいって」


「うわあ、まとも」

思わず声が漏れた。娘が知らない人の家に居候しているのを認める以外まともだった。


「まあ、今世の私の親なので。当たり前です。空くん。」


「……それで、本当に言いたい事はなんですか?」

まあ、無駄な議論をするのをやめて、彼女の言いたいことを尋ねる事にした。


「それは、さっき…言ってないですね……えっと、空くん学校の担任の先生に空くんの家に居候してるってバレて」


「……」

親よりまずい可能性があった。何で?そもそも居候が可笑しい気がするけど。あっ、焼肉か?もしかして焼肉か?


「それで、学校には言わないって事になったけど。大丈夫な人か1回家庭訪問するって」


最悪のシナリオは回避されていた。ギリギリ耐えた。いや家庭訪問次第では最悪のシナリオになるし。そもそも僕が彼女に家を用意して追い出せば……はぁあ。出来たらやってるよな。

いろいろな要因で出来なかった。


「いつ?」


「明日」

彼女は申し訳無さそうに小さく呟いた。


「いろいろ言いたい事はあるけど。もっと早く言えよ。」

思わず叫んでしまった。


「それは、そうだけどなんか言いづらくて」

彼女は下を見ながら申し訳無さそうに小さく呟いた。まあ言いづらいけど……


「明日は定休日だから良いけどさ。てか、ああもう」


「ごめんなさい。」

素直に謝る彼女にもう何も言えなかった。昔幼馴染と喧嘩した時のことを思い出した。謝罪はいつも幼馴染からだった。はぁ甘いな他人に。


「カレーの材料買って来て下さいね。」

いろいろ思うことや言いたい事もあったが、もう仕方ない。覚悟を決めた。


「ありがとう、空くん」

そう言う彼女を見ながら、朝食をほおぼった。

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