社畜から最強冒険者へ~おっさんは【対異世界型パワードスーツ使い】として魔女と生活したり冒険しつつ、チート武装とAIサポートで魔術を追放〜聖剣騎士に今更戻ってきてと言われてももう遅い~
第1話 0.0000000916785237の可能性を読み取る獣
社畜から最強冒険者へ~おっさんは【対異世界型パワードスーツ使い】として魔女と生活したり冒険しつつ、チート武装とAIサポートで魔術を追放〜聖剣騎士に今更戻ってきてと言われてももう遅い~
ひなの ねね
序章 2019年
第1話 0.0000000916785237の可能性を読み取る獣
「成長のために働かせていただいて貰ってるんだろ、義贋!」
「よくこんな成績で会社、来れるねえ、義贋君」
「帰る暇あったら営業だろ、社会人なんだよ、分かってんのか、義贋」
「勿論、課長が正しいですよねぇ、なあ、義贋……って義贋もほら頭下げる!」
「駅前で名刺配る、それが終わったら、社則を五十回叫ぶ、声出せ、義贋!」
「ほら酒を注ぎに行けよ、分かってんだろ義贋よお!」
「飲んで飲んで! ほら義贋、もう一軒行くぞ!」
いつもの怒号が脳内でリピート再生される。
二日酔いもあり、義贋総司郎は吉祥寺の井の頭公園でぼーっとベンチに座りこんでいた。
休日の土曜日なのに、何故俺は無給で訪問販売なんてしているんだ。
月収十四万の為に、何故ここまでしなくてはいけないんだ。
ブラック会社で働かずに新しい仕事を探せばいいのだろうが、三十五歳の俺にとって転職そのものが次のブラック会社に繋がってしまうのも分かっていた。
「もっと勉強していい会社に入れば良かったか」
周りを見渡すと同じように井の頭公園のベンチで頭を抱えているサラリーマンが目に入った。
地元の友人は東京大学卒で誰もが知っている超大手企業に就職したけど、数日は家に帰れず、上司にこびへつらう毎日だとぼやいていたのを思い出した。
ホワイトな職場なんて存在しないか、前世で相当な善行を行っていないと巡り合えないらしい。
井の頭公園の池の周りは、幸せそうなカップルや子連れの親子も歩いていた。
あの人達も生きていくうえで大変なことはあるだろうが、なんて幸せそうなんだろう。
俺は大変なだけで、幸せだなんて思えることは一つもない。
普通に憧れて上京したが、普通に生きるのがこんなに難しいなんて思わなかった。
彼女もなく、金もなく、仕事も上手くいかない三重苦だ。
生きるために働いているのか、働く為に生きているのか、ここ最近は全く分からない。
「さて、そろそろ行かないと、仕事を取ってこなきゃ……」
身体は疲れていないが、ふらつく足で立ち上がる。
泥水の中にいるようだ。心はもう歩きたくないと叫んでいるようだが、心の耳を塞いで一歩を踏み出す。
「きゃっ」
「おっと」
俺がふらふらと歩き出したせいで、歩いていた人に気が付かず、ぶつかってしまう。
相手は眼鏡をかけた三つ編みのセーラー服姿の女子高生だった。
「ごめんね、君」
尻もちをついた女子高生へそっと手を伸ばすが、出した後におっさんが手を出して気持ち悪いかなと考えて動きが鈍ってしまう。
しかし眼鏡をした少女は何も気にせず「ありがとうございます」といって、俺の手を掴んで立ち上がった。
少女は色白な手で制服を叩いて土ぼこりを落とし、俺の顔を見て目を見開く。
「えっと、どうかした」
見開いたかと思うと、焦点が定まらず空や風景を見回しているようだった。
数秒間そうしていたかと思うと、次第に瞳の動きは遅くなり、起き抜けのようにぼーっとしていく。
「だ、大丈夫、何処か打った?」
「あ—……いえ、すみません、大丈夫です」
俺の声にハッとして正気に戻り、ぱっと手を放して再度「大丈夫ですから」と言って駆けだしていってしまった。
「やっぱ、おっさんだとちょっと驚いちゃったよな」
俺は軽く頭を掻いてぼやき、すぐに歩きだす。
生気の抜けたおっさんじゃ尚更気味悪がられたかもしれない。
そこは正直申し訳なかった。なら手を差し出さなければ良かったと反省する。
しかしなんだかよく分からないが、ぼーっとした子だった。
けれど、若いことが羨ましい。彼女は輝いていてそれだけで様々な未来への選択肢が用意されているようだった。
「はあ、ぱっとしない人生だ」
俺のように人生の選択を誤り、選択肢すら残っていない「生活の奴隷」のような人間じゃなかった。
彼女のように多彩な選択肢が残る若さに戻ることはできないが、俺もこの辺りの家族やカップルのように『誰かのために生きる』事が出来れば、人生は楽しいのだろうか。
社会のルールやがんじがらめの人間関係だけに悩むことは、なくなるのだろうか。
自分の意志や選択を尊重して、人生を歩んでいけるのだろうか。
「……はあ」
無理だろうな。
仕事で出会いの時間もなければ、金もない。
そして圧倒的にこれまでの人生の積み重ねが不足していた。
全部自分の選択が悪いと、ただ流れに身を任せてきた自分が悪なのだと、気が付いたときには遅いのだ。
「けどさ、俺も誰かを幸せにして笑顔にしてさ、誰かも俺の笑顔で幸せになってほしい。一度でいいからそんな絵空事みたいな綺麗ごとみたいな時間を生きたいじゃないか」
空を仰ぎ見て、何度目かの溜息をつく。
出来ることなら守りたい誰かの為に生きてみたい。
それが幸せかどうかすら判断できるチャンスもないなんて悔しすぎる。
「————大丈夫ですよ!」
「うおっ!」
突然の元気な声に俺は口から心臓が出そうになり、その場で文字通り飛び跳ねる。
「あの、先ほどのお礼です、ありがとうございました!」
女子高生は俺の胸に豆腐ドーナツを押し付ける。
「このドーナツは確か……」
井の頭公園の入り口くらいで売られていた豆腐ドーナツだったと思う。
この女子高生、まさかそれを買いにさっきは走り去っていったのか?
俺がぶつかったのに、ただ手を差し伸べただけなのに?
そんな些細なことで——?
「わ、私が見たことは本当になるから——おじさんは優しい人だから、優しさは必ず廻ってきます!」
少女は「忘れないでください、辛くても必ずです!」と最高の笑顔と共に駆けていく。
俺は突然渡された豆腐ドーナツを頬張り、なんだか目頭が熱くなった。
必ず、なんて大人になったら苦し紛れにしか使わない。
けど今はその「必ず」が心に強く鳴り響く。
「分かってるけど、改めておじさんって呼ばれると、結構きついなあ……」
きっと、おじさんと呼ばれたから俺は泣いているのだ。
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