Youtube台本

水咲雪子

喫茶店の夢

キャラクター

イズミ:喫茶店を営む青年

ヤマト:小説家を志す青年


本編

イズミ「これは珍しいお客さんだ。いらっしゃい」

ヤマト「久しぶり。ここは変わってないね」

イズミ「そうでもないさ。本もかなり入れ替わったし、ドリンクの種類も増えたんだよ?」

ヤマト「ハハッ!それは随分変わったね」

イズミ「何か飲む?再会の祝いに奢るよ」

ヤマト「それじゃ遠慮なく。メロンソーダを貰おうかな」

イズミ「そう言うと思ったよ。アイスも乗せていいよね?」

ヤマト「流石分かってるな。最後に来たのって何年前だっけ?」

イズミ「中学の頃だから……もう三年くらいか」

ヤマト「そんなに経つのか……道理で懐かしい訳だ」

イズミ「ほい、ソーダフロート完成」

ヤマト「ありがと」

イズミ「あの頃は楽しかったね。学校サボって遊びに行って怒られたり」

ヤマト「試作品だってメニューに無い料理勝手に出して怒られたりな」

イズミ「あはは!あったねそんなことも。でも、少し怒られるくらいが一番楽しいんだよね」

ヤマト「違いない」

ヤマト「そういえばおじさんは?」

イズミ「おじさん?ああ、父さんなら今は仕事中だよ」

ヤマト「仕事?おじさんはここの店主だろ?」

イズミ「それが違うんだなぁ。まぁ名義上は父さんが店主になってるけど、去年から実務は全部俺一人でやってるんだ」

ヤマト「へぇーってことはイズミの夢は叶ったんだな」

イズミ「まぁな。高校卒業したら名実ともにこの店は俺のものになるってわけだ」

ヤマト「それは楽しみだな」

イズミ「ところで今日はどうして来たんだ?連絡も無しに……」

ヤマト「ダメだった?」

イズミ「まさか。連絡をくれれば半休取ったのになと思っただけだよ」

ヤマト「そっか。良かった。要件だけど、実は渡したいものがあってさ。受け取ってくれる?」

イズミ「もちろん。ホラーの類じゃないなら何でも受け取るよ」

ヤマト「相変わらずホラーは苦手なんだね。安心していいよ。そういうのじゃないから」

イズミ「それは……」

ヤマト「約束の品だよ」

イズミ「約束?」

ヤマト「忘れたとは言わせないぞ。僕の小説だよ」

イズミ「ああ。覚えてるよ。ヤマトの小説を俺の喫茶店に並べるってやつ」

ヤマト「そうそう。約束と違ってちゃんとした本にはできなかったけど……イズミには見せたかったんだ」

イズミ「そっか……にしても5冊って。随分頑張ったんだね」

ヤマト「うん。頑張ったんだよ」

ヤマト「約束とはちょっと違うけど。並べてくれる?」

イズミ「嫌だ」

ヤマト「え?」

イズミ「俺がまだ読んでないからね。読み終えるまで並べたりしないよ。ヤマトの小説の最初の読者は俺じゃないと。誰にも譲ったりしない」

ヤマト「ハハッ!それは嬉しいね。でも、勿体無いとか言ってしまい込んだりしたらダメだからね」

イズミ「善処するよ」

ヤマト「心配だなぁ」

イズミ「大丈夫だよ。ちゃんと並べるから。ただ、少しだけ工夫はするけど」

ヤマト「工夫?」

イズミ「そうとも。約束通り本にしよう。近くに印刷所もあるし、ここにはパソコンもあるからね。きっと良いものが出来るよ」

ヤマト「それは楽しみだ」

イズミ「ヤマトも手伝ってよ。こんな量一人で打ち込んでたら何日かかるかわかったもんじゃない」

ヤマト「……ごめん」

イズミ「ヤマト……?」

ヤマト「ごめんイズミ……僕、もう行かなきゃ」

イズミ「そっか……分かった。じゃあ―――」


イズミ「あれ……いつの間に寝て……ヤマトは!?」

イズミ「ソーダフロートも無い。まさか、夢……だったのか?」

イズミ「郵便か?いつの間に……」

イズミ「これは……!!」

ヤマト『イズミへ。この手紙が届いた時、僕はもうこの世にはいないでしょう。なんて、そんな定型文は必要ないかな。その封筒には僕が書いた小説が入っています。もし君があの日の約束を覚えていてくれたなら。もし君が約束を果たせなかった僕を赦してくれるなら。この小説を君の店に置いてください。どうか、僕たちの夢の続きを』


イズミN「それから、俺はヤマトの小説を読んだ。何度も書き直したところがいくつもあって、読めないところも多かったけれど。それでも俺だけは、ヤマトが何を書こうとしていたのかが鮮明に分かった」

イズミ「ったくあの野郎。俺ヒロインかよ」

イズミN「物語は漫画家を目指す少年と、喫茶店のオーナーを目指す少女の話。二人が夢を語り合う姿は、凡そ似ても似つかないほどに脚色されたものではあったが、俺とヤマトがモデルになっているのがわかった。きっとこれはヤマトの夢そのものなんだと、そう思った」

イズミ「ホント……バカだよ、お前は」

イズミN「5冊目の最後のページ。夢を果たした二人が喫茶店で再会するシーン。ヒロインのセリフがぐちゃぐちゃに塗りつぶされていた。俺は、そこに書かれていたであろうセリフを口にする」

イズミ「お帰り。ヤマト」


  完

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