第71話 終焉と聖女の密会

今回はキュンとするラブ米な話をお届け出来ればよい...と思いますが、オチは結局ギャグになってしまいます!


???「絶対、作品タグにそぐわない話にはしませんよ!」


ーーー


ううう...もうお嫁に行けないイチロウです。異世界生活12日目の朝5:00。後1時間で夜がほのぼのと明けはじめようとしていた時に、僕はふと目を覚ました。


昨日のように何者から発せられた伝波が届き、頭に囁き声で告げられたために、起きてしまったのだ。その声に従って、僕は3階にあるバルコニーへとやって来た。そこに居たのは闇夜に映る一人の女の子。黒い風景に鮮やかさを灯すその髪は、1時間後の空を告げる色をしている。


「やはり来て下さったのですね、イチロウ様。」


薄いネグリジュ姿の女の子は、その銀色の瞳で僕のことを捉えている。


「こんな所にお呼び出しですか、アリア様。」


少し寝不足なこともあり、少し悪戯気に話す悪い男ぼく


「もう。そんな意地の悪い事を申して。」


アリアはそう言い、こちらに向かってツカツカと近づき、体を押し当ててくる。


「イチロウ様、正直に答えて下さい。あなたは普通の人ではございませんよね?」


僕は少しびっくりした。アリアは僕達の正体に何となく迫ってきている。


「さあ。何者でしょうかねぇ?意外と英雄の一人だったって言うオチかもしれないですよ?」


すると、アリアは両手で着物を掴んでくる。まるでここから逃がさないと言わんばかりに。


「いいえ。嘘です。イチロウ様は現にここに来ております。さて、イチロウ様はどうしてここに足を運びになられたのでしょうか?」


銀色の瞳がしっかりと捉えて、離さない。この圧迫される感覚は、アウラに詰め寄られたときと同じものだと察してしまう。


「沈黙は肯定ですね。もう隠しても無駄だと教えてあげましょう。イチロウ様、あなたは朝5:00に頭に響いたはずです。『3階のバルコニーに来て下さい』と。」


...正解だ。でもどうしてアリアがそのことを知っているんだ?


「どうして知っているんだ?という目をされていますね。答は私のスキル、<聖女の囁きセイント・ウィスパー>です。このスキルはある対象にスキルの持つ者の声を魔力波長に乗せて届けるというものです。そして、その対象は『私が生涯掛けて信仰すべき神』となっています。」


そう言い、今度は腕を首へと回したアリア。


ムニュッ♡


丁度、胸の所に彼女のあの柔らかい2つの感触がダイレクトに伝わってくるという構図になっていて、ドキドキしてしまう。


「これでもうお分かりだと思います。あなたの正体、それは”神様”で間違いありませんね?」


これはもう正体を隠してはいられないな。ガッチリと抱きしめているせいで、逃げようにも逃げれないし。無理に振り払うと、アリアがペットボトルロケットのように銀河の果てまで飛んで行ってしまうし。


「参った。降参だ。僕は神様で間違いないよ。それにしてもびっくりだよ。アウラにすらバレないレベルにまで<偽装>をしていたのに。」


「うふふ。それを聞いて少し嬉しいです。アウラでも知らないことが出来ちゃいました。羨ましかったんです。彼女がイチロウ様と進んだ関係になっていることが。信徒として。女として。」


ギュッーとより密着度を上げていくアリア。胸のあの2つの双丘は形を潰していき、そして重さに耐えられなくなったのか床に押し倒されてしまう。


上を見上げれば、夜は太陽が昇り始めているのか、オレンジ色がかったピンク色をしている。時刻が6:00に差し掛かっているのだろうか。空がアリアの髪の色に染まっていた。


「イチロウ様。今日で、終わりにしてくれますか?終焉を司る者として、この国の裏にはびこる闇を振り払い、そこに光を差し込んでくれますか?私の『生涯掛けて信仰すべき神デイアティ』様...。」


銀色の瞳を閉じて顔を近づけてくるアリア。腕に力を入れ、僕の決断を促してくる。決して穢されてはならないとされる神聖な身体。それが今、僕というしんこうたいしょうへと捧げられようとしている。


距離はおよそ 3 cm。『ここから先はイチロウ様にお任せします』とアリアは顔の位置を固定している。昨日の話を思い返す。


アリアの母が粗末に扱われ、止めようにも力が無くて止められない。ラペシュによって家族を引き裂かれたアリアは今、その手を僕達に向けて延ばしている。ここで応えなければ『女神の家』のリーダーとして失格ではないかと僕は思い、そのままアリアへと顔を近づけた。


朝6:00。夜がほのぼのと明けはじめる曙の頃、終焉と聖女の影は1つへと溶け込んだ。信仰する神様からの赦しを得られたアリアの目からは朝露のように涙が頬を伝って、着物を濡らしていた。ゆっくりと唇どうしが離れ、その間にかかる銀色の糸は、奇しくもアリアの瞳の色と同じ色をし、それが昇った太陽の光を反射すると銀色は黄昏色へと変化していった。


ああ、この色を僕は知っている。<最上級索敵>で途中から気づいてはいたのだが、この雰囲気をぶち壊したくはないと思って黙っていたことがある。


僕とアリア。その間にある黄昏色の糸は、バルコニーの影に隠れていた勇者様の髪の色をしていたことを。


僕をバルコニーに呼び出すことを考案したのが、僕とアリアをこうして繋ぎ合わせたアウラだったことをまだこの時は知ることはなかった。
















「イーチーローウーさーん?どうしてあんなロマンチックな雰囲気とメインヒロインみたいな風格をした女なんかにドキッとしちゃっているんですか?駄目ですよ。ここのメインヒロインは神妻である私なんです。それだけは許しませんからね?絞り取り2年追加します♡」


バルコニーから戻り、2階へと向かおうとしたイチロウを待っていたのはまだ今夜の分を頂戴していないヴィシュヌだった。


「や、やめろ。折角、この世界で初めて、アリアとまともなラブコメが出来そうだと思っていたのに。」


イチロウは若干のメタ発言をしつつ、まともな恋愛から最もかけ離れた存在ヴィシュヌから逃げだし☆撤兵したが、結局は捕まってしまい、味見1年、キス1年、絞り取り3年というアリアの時に感じていたロマンスの一欠片もない恋愛さくしゅをさせられてしまうこととなった。

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