第69話 勇者×聖女SS(修羅場サービス)

聖国『レリッジ』。霊峰に囲まれたこの土地は、神のいる世界に最も近い場所と称される国として知られ、世界の宗教の本拠地が集結している地となっている。つまり、もしここで


『僕達の正体が神でした~♪"v('ω'*v)』


なんてことになったら一瞬で、この国の象徴という役職に永久就職決定である。さぁ、そんな神のいる世界に最も近いと称されているこの国について、うちの女神様はどんな反応をするだろうか?


「全然、神気が感じられないねー。」


「神気を感じません。駄目駄目ですね!」


「私達『エプタ』が一番近いです。後、神気はたったの4です。ゴミです。」


「妾達の敵ではないわ。」


「ゴミですわね。ええ、ゴミですとも。」


うわー容赦ない酷評。『エプタ』が一番近いとか言っていますけど、そこは神のいる土地そのものですからね。近いではなく、距離ゼロですからね。後、敵って何?


「それよりもいっくん...。は・や・く、宿探そ?」


いつもよりしおらしくなったツカネが、始まりの町の時のようにシュルリと右腕に巻き付いてきて、コテッと頭を乗せてくる。更に、胸に『の』の字を指で書いて来て、確実に情欲を掻き立たせてくる。


「駄目...ですよ?」


反対側の左腕にアカネが巻き付き、姉と同じように誘惑していく。


「お兄ちゃんはお姉ちゃんだけのものではないんですよ?...私、とても切ないんです。2日もお兄ちゃんを貰っていないとこんなにも苦しくなるなんて...ううう...」


ウルウルとした赤色の瞳をこちらに向けてくるアカネ。左右からの攻撃に震えてはいけない所が震えてしまう。


「う...。さすが第一婦人と第二婦人なだけはありますね。」


「物の見事に婿殿をタジタジにさせておるではないか。」


「くっ。私はあそこまであざとくは出来ませんの。こんなにも自分を憎いと思ったことはありませんわ。」


女神達はいつも通り、今夜行われる宴に向けて、内なるモンスターを暴走させている。神達よ、君達を信仰している国なのにそれでいいのか...。


◇◇◇


一方その頃、勇者と聖女は今後のことについて話していた。


「...そうか。『レベル増強剤』を売りにしてやりたい三昧しているのか。」


「はい。それもレベルを90以上へ上げ、神を作るためを目的として。そして、レベルを90より上になった者を神々が降臨した姿として、更に布教活動をすることでより多くの財を得ようとするために。」


「成程ね。他国に対しては簡単に強さを手に入れることのできる闇アイテムとして売りに出せれば良いと。」


アウラは友で聖女であるアリアの話を聞くに従って、本件の根深さに頭を抱えていった。


「まさか、アウラの国にまで広がっていたなんて。これでは私、聖女失格ですね。」


アリアはそんな友達の姿を見て、自身の不甲斐なさを感じた。


『もっと抑えこんでいれば』


そんな言葉が頭を埋め尽くす。


「いいんだって。その分を今から清算していくんだからね。さて、アリアを苦しませたそいつらをどう料理してくれようかねぇ。」


聖剣に手をかけて、目を細める勇者。その顔は普段のものとは全く違い、英雄王の娘に等しい勢いを見せていた。


「アウラ、ありがとう。」


アリアは心から友へとお礼をする。


「さて、この話はここで終わりにして、アウラ。」


「うん、そうだね。」


2人の間の空気が一変する。先ほどまでは友と友の友情だった雰囲気が、今では女と女のO・HA・NA・SHIのものへと変化した。


「イチロウ様とアウラはどんな関係なのかな?それと、あそこの女性達は一体何者なのかをしっかり聞きたいですわね?」


まずは聖女が先制攻撃!いきなりストレート球を送っていく。


「え?ぼくとイチロウくんの関係だって?そんなの、勇者と姫の関係に決まっているじゃないか。後、彼女達はそんな姫の愉快な仲間達さ。」


しかし、この勇者はさらりとその攻撃を受け止める。実際、本当のことだから特に問題は無いのだ。


「いいえ。そんなことではありません。一人の女として、イチロウ様のことをどう思ってどう思っているのかを知りたいんです。ええ、決してライバルとしてではなく、一人の友達として教えて欲しいです。」


さすがは友達。彼女ことは分かっている。


「ぼくの...そうだね。ハジメテを捧げた相手かな。だって、勇者と姫が結婚して幸せになる所であの物語は終了しているし。ね?」


この言葉だけで、聖女は友と恋の相手との関係を察した。つまり、友はイチロウ様に...。妄想上で、そんなことを浮かべてしまった純情な聖女様は頭をオーバーフロートしてしまい、


「きゅううう...。」


バタリと倒れてしまった。


「あーあ。倒れちゃった。まぁ、ぼくは一生掛けてこの身を姫の守護者として全うすると最後に締めたかったんだけど、それを言う必要はなかったかな?」


アウラはアリアを、未だ馬車で寮生中のマリアの横に寝かせ、イチロウ達に今後の予定を伝えに向かった。


(取りあえず、ここでのぼくの拠点に案内しないとね。)

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