第33話 ランクアップ試験 容赦無き神の力

受験番号3番、イチロウです。僕の魔法試験は、『普通の的に魔法を当てろ』ではなく、『オリハルコン製の的を破壊しろ』という試験の内容を無視したものとなった。十中八九、男性試験官の仕業だろう。


はぁ。ここまでテンプレは発生させないで欲しいなぁ。周りを見ると、男性冒険者や男性試験官がニヤニヤした顔で見つめている。逆に、女性冒険者や受付嬢は男性らを睨み付けていて、あちこちから非難を飛ばしていた。


だが、僕の仲間であるアカネやツカネは全然そんな顔をせず、逆に『見せつけてやれ』と言った感じで僕を見つめていた。ならば答えよう。最愛のめがみさま達のために。そして待たせたな、『ラグナ』よ。お前の出番だぜ。ここから先は僕の喧嘩だ!


(いいえイチロウ様。私達の喧嘩です!)


誰だ!?いや、気のせいか。とにかく目の前の的を破壊しない限りは次には進めないことは確かだが、折角だから


「<魔装:ダーク>。」


<魔神の夫>によりレベルアップした<最上級闇属性魔法>。その魔力が神剣を纏い始める。すると、剣の周りに黒い稲妻を伴った黒炎が発生し、周囲を暗くした。周りの人達が騒いでいるが、今は気にしない。あ、そうだ。そろそろ魔法剣士なりの技名を命名していこうか。その方がかっこいいし、『巻』という漢字を使用してみるか。


「神代流魔剣術 闇の巻 裁きの黒炎龍。」


神剣を振るうと、黒い稲妻を伴った黒炎が黒い龍をかたどって的へと飛び、見事にオリハルコン製の的を、そのまま黒い火柱を上げた。邪眼の力をなめるなよ。


うん。異世界ファンタジー特有の西洋名よりもやっぱり和名の方が叫びやすい。そして、僕は厨二病を未だに発症したままだった。


「きゃあああ、素敵よ~!」


「こっち向いて、そのかっこ可愛い顔を拝見させて~!」


か、勘違いしないでよね!別にあなた達のためなんかじゃないんだからね!


「いっくん。ツンデレは少し似合わないかなぁー。」


「お兄ちゃんはツンデレよりクーデレの方が似合いますよ。」


「か、勘違いしないでよね!プフッ!」


は、恥ずかしい。ただ冗談で思っただけなのに、女神達の容赦ないツッコミにオデノゴゴロハボドボドダ!


「ッチ!受験番号3番、イチロウ。合格!」


◇◇◇


魔法試験を無事に合格した僕達は、次の実践試験へと移った。試験官から説明を受け、試験が始まる。最初はアカネ。対するは、オリハルコン製の剣を持ったS級冒険者。名前はエックハルトらしい。


「さぁ、お嬢さん。どこからでもかかって」


「<付与エンチャント:ファイアアロー、ウインドストーム>。再びいっけぇー。ファイアレイン。」


ラゼバラ戦でも使用した、10,000本の無慈悲な炎の矢がエックハルトへと降り注いだ。


「アバババババ!」


ズドォーンッ


はい。終わりました。アカネ、本当に容赦がなさ過ぎる!


「受験番号1番、アカネ。合格!」


アカネはそのまま僕達の元...には戻らず、男性冒険者らに向かってこう言い放った。


「もしお兄ちゃんにまた変な真似をしようものなら、さっきのようにいつでも天から矢をぶち込みますんで夜露死苦。」


真顔で言い放ったアカネの表情は、明るく元気ないつもの彼女とは想像も付かない程冷たかった。これを見ると、いかに彼女達が僕以外の人間には無関心であるかがよく分かる。


だが、アカネが僕達の方に掘り向いた時にはいつもの表情に戻っており、


「お兄ちゃん。お兄ちゃん。見てましたか?私、頑張ってお兄ちゃんに悪さをする人をやっつけちゃいました。」


頭を僕の方へと差し出すアカネ。ラゼバラさんの時と同じものを要求しているのだろう。なので、僕は愛情を込めて頭をナデナデする。


「エヘヘヘ。お兄ちゃんのナデナデだーいすき。」


守りたい、この笑顔。これ程妹が可愛いと思ったことはあるだろうか?女性冒険者や受付嬢も何処かほっこりした笑顔を向けていた。


「次、受験番号2番。準備して下さい。」


次にツカネ。対戦相手は魔法の杖を持ったS級冒険者のラプス。だが、ツカネの様子がいつもとは違う。試験はそのまま始まった。


「先手必勝。<ファイアトルネード>。」


いきなり上級火属性魔法を放つラプス。しかし当然の如く、<魔法障壁>で防いでいく。


「ふっ。これは挨拶代わり。ここからが本当の勝負だ。<サンダーバード>。」


おお。これは珍しく雷属性魔法。上空に雷で出来た大勢の鳥が形成され、瞬く間にツカネの周りを包囲する。


「これでもう逃げられまい。これぞ、俺の十八番。<サンダーバード>の包囲網だ。少しばかり痛いが、悪く思うな。」


この状況なら、試験を受けたB級冒険者は降参するだろう。しかし。それはあくまでの冒険者である場合の話だ。魔法神は無論、例外だ。


「それで?ここから何を繰り出すのかなー。」


彼女の周りにはいつの間にか<アースバレット>が無数に展開されていた。そして、それらはツカネの周りを様々な方向へと回転し始める。


「ゲッ。出ましたよ。お姉ちゃんの鬼畜魔法。<アースバレットファンネル>。あれを出されると私は必ず負けてしまうんです。」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る