第21話 偉大なる白飯

リザードマンの解体を終えて思い出した。僕は上級神にレベルアップしてからは、料理だけでなく、より詳細な調味料も創れるようになったのだ。以前まではごまだれを創ろうとした場合、料理品とは違い、漠然としたものしか出てこなかった。しかし今なら、調味料でもメーカー指定のものを創ることが可能だ。早速、創ってみる。


「<創造魔法:オバラの純金の味 旨ニンニク>。<創造魔法:オバラのてりやきのたれ>。」


おお。来た。前の家の台所で何度も見たことのある超人気メーカー調味料。肉料理にお馴染みのアレだ。これをチヒロさんに渡してみると、早速味見を行った。


あっ やせいのりょうりしんがあらわれた。


イチロウによるオバラ食品こうげき。


「ッッッッッッッ!!?美味しい。美味しいです。」


かいしんのいちげき!


「ここまで深い味は一度も遭遇した事がないです。私ですら未知な味がまだ存在するなんて。面白い。面白いです。イチロウさん。その調味料を是非、私に使わせて下さい。今日は久々に面白い料理ができる予感がします。」


効果はバツグンだ!バツグン過ぎて余計に油を注いだ結果になった。


調味料を受け取ると、魔法で竈を作成し、<アイテムボックス>から取り出した巨大なフライパンにレッドボアの肉を投入し始める。もう肉の焼ける音だけで腹は鳴ってしまうが、そこにさらに追い打ちがかかる。オバラの調味料のトクトクトクという音。それに伴って、森中を2種類のタレの匂いが駆け巡る。


「はい。完成よ。レッドボアの照り焼きステーキとニンニクステーキ。どちらも腹一杯間違いなしですよ。」


「「「ジュルリ。」」」


僕達は無言で、レッドボア1頭分の料理に手を伸ばした。僕はまず、ニンニクステーキの方を実食する。


う、美味い。このガツンと来る味付け。無性に米が欲しくなるこの衝動。あーもう我慢できない。


「<創造魔法:コシヒカリ>。」


僕はイレブンイレブンのパックご飯を12個ほど創り、火属性魔法で全て温める。当然、見たこともない料理しろめしに女神達は目を奪われる。


「いっくん、それ何かな?真っ白だー。」


「匂いは感じられません。これは食べ物でしょうか?」


ツカネ・アカネ姉妹は首を傾げるが、料理神の嗅覚はするどかった。何と一発で、白飯の上ににんにくステーキをのせて食べたのだ。


「...奇跡です。なんて奇跡なのでしょう。これこそ神の御技です。」


一口だけで涙を流し始めたチヒロさん。そんなに美味しかったの?それを見た残りの2人の女神も試しに食べてみる。


「おお!いっくんよ!キミはどこまでボク達を魅了し続けるのか!」


「馴れ馴れしく女神様を名乗ってすみませんでした。調子に乗りすぎていました。頭の中で白いビーズと思ってしまった私をお許し下さい。」


一口食べた途端に、パックご飯に向かって祈りを捧げる女神達。すると、天から光が降ってきて、にんにくステーキをのせた白飯(名前は『にんにくボアステーキ丼』)が天へと吸い込まれていった。何が起こったの?


すると、しばらく立った後、あの神からの神託?が下された。


(美形神に命令します。この白飯というものをお供とともに月に1度捧げ、白飯をこの世界でも栽培できるようにして下さい。)


こ、この声は全能神様!?あの方にも度肝を抜かせましたよ、白飯さん。これはとてもヤバい使命を受けてしまった感じがするぞ。


「い、いっくん。この世界でやることが決まっちゃったよ。全能神様直々の命令なんて、神界でもトップクラスな名誉なんだよ。」


「はい。というより、全能神様の声を聞くのも初めてです。びっくりしましたよ。」


「白飯。これは料理において確実に革命をもたらします。何としても、この世界で栽培できるようにしなければ。」


想像以上に重大案件だったぁぁぁ!?仮にだ。仮にこれを断りでもした場合...。


(もしこの使命に関わる活動を数年分怠けた場合、以前にも話した通り、子供を数億人産むまで出られない部屋にでも閉じ込めます。特別な畑に2人だけの作物を植えて収穫して貰いますよ。ウフフフフ。)


ヒィィィ!?ヤンデレ全能神様が怖すぎるぅ。は!?まさか、これがデジャブというものか。


(返事がなさそうなので、<全能神の狂愛>でも...)


分かりました。分かりましたから。全能神様がご満足いただける結果を残しますから。


(よろしい。けれど、無理はしないで下さい。ゆっくりと着実にを心がけることです。あ、でも疲れたなら休んでもいいですからね。私と褥を共にする甘い時間を永遠に過ごすことも出来るのですから。)


”甘い”ではなく、”辛い”の間違いでは?これを境に全能神の声は聞こえなくなった。そうだ。今すぐにしろというわけでは無いんだ。中学の頃とは違って、時間はたっぷりあるんだ。それに仲間もいる。


「冷めないうちに食べおう。」


僕の言葉に3人は頷いて、食事を再開した。今度は照り焼きの方を頂くことにする。


これも、美味い。にんにくステーキとは違って、マイルドなタレがマッチしている。この場合は、米と並ぶあの主食の出番だ。




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