第7話 昼休憩は朝食セット

ギルド本部の中核をなす尖塔の頂上付近には32の鐘が設置されており、時間ごとに異なるパターンの音色を奏でる。


 昼食の時間を告げる12時の鐘はその中でもっとも壮麗なものとして知られ、32の鐘のすべてが音色を奏でる。


 その音は、沈黙に包まれていた金融課の小屋の中にも聞こえてきた。


「あぁ、もう昼か……」


 衛兵たちの私的な日記を読み続け、ある衛兵が酒場の看板娘に恋をしており、看板娘も衛兵視点で思わせぶりな態度をとっているが、その看板娘は別の衛兵を付き合っている。しかし、第3の衛兵から見て付き合っていると言うより体のいい財布として扱われている。などなどのどうでもいい事情ばかり詳しくなってしまった。

 

 ちなみに、看板娘に財布として扱われていたのは街の南側一帯を管轄する衛兵総監らしい。


 その看板娘につきまとっていたとして衛兵の世話になった冒険者が一人いたので報告書にはまとめて書いておいた。

「そうだ、ランチに行こう」


 上司のアリーザはまだ帰ってきていないが、さすがに昼休憩くらいとっても文句は言われないだろう。


 小屋を脱出して、中庭に出た。


 ああ、世界はこんなにも明るかったのか!

 

 オイルランプの明かりのみに照らされ、埃の匂いが充満した小屋の中との差にフレイは感動していた。


 いつか、お弁当を持ってきてこの中庭で食べるのもいいかもしれないな、などと考えながら職員用食堂に向かう。


 職員用食堂は冒険者用の食堂とはことなり、こじんまりとした作りではあるが、量より味重視となっている。

 この知識は「冒険者は肉と塩さえ与えれば文句を言わないがギルド職員は野菜が新鮮じゃ無いだの、だしが薄いだの文句が多い」という全方位を敵に回すコメントとともに妖精のシャスが教えてくれた。


 そんな職員用食堂には、それなりに人が集まっていた。

 どこのテーブルもグループで利用されており恐らく同じ部署であろう職員たちが歓談していた。


 フレイは、自分の部署の唯一の同僚(?)であるアリーザを思い浮かべて、ここで一緒に食事することはないだろうなとため息をついた。


 というか、あの巨体でこの食堂に入れるのか?金融課が中庭にあるのはギルドの建物だとアリーザが移動できないからでは?


 メニュー表の前でそんなことを考えていると背後から声をかけられた。

「フレイちゃん。久しぶり!」

 声をかけてきたのはアンだった。

「さっきぶりね。元気そうでなによりだわ」

「メニュー多くて悩むよね。全部食べたくなるよね。そうだ、ふたりで全部のメニュー頼んでみたい?」

 メニュー表にはざっと20ほどのメニューが並んでいる。量は少なめとはいっても、1つのメニューで1食分の分量はある。

「さすがに、それはないでしょ。それにお金も……」

 フレイはメニュー表に書かれた金額に顔を引きつらせていた。(職員割引とか無いのかしら?)


 結局フレイは、一番やすい朝食セットを頼んだ。

 隣ではアンがステーキ定食と揚げた白身魚の定食を頼んでいた。


「一緒に食べよ」とのアンの提案を断る理由を思いつかなかったフレイは、空いたテーブルを見つけて席に着いた。


 昼食としては少々物足りない朝食セットのスクランブルエッグをフォークでつついていると、正面に座ったアンが真剣な表情で訪ねてきた。


「フレイちゃん。ギルド辞めちゃうの?」

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