第2話 採用担当の正体は

「ようこそ皆さん。私はギルド本部の人事課採用担当のシャスです。どうぞよろしく」

 やってくるなりそう自己紹介したのは、温厚そうな見た目のお爺さんだった。

 もっとも、白髪頭や温厚なしゃべり方から老人に見えるだけで背は低いながらも背筋はまっすぐのびでおり、しゃべり方も明瞭なので実は老けているだけの中年かもしれない。

 フレイとしては、人の年齢を聞くのはしばらく控えたかったので黙っていることにした。


「あの、お歳はいくつでしょうか?」


 しかし、空気を読まない質問がすぐ隣から聞こえた。

 質問をしたのはアンであった。

「今年で534歳になります。お嬢さん」


(なるほど、おもったよりも……)

「534歳?」


 周囲でも老人の答えに動揺するささやき声がした。

 質問をしたアンはというと。

「よかった、私より年上だ」

 となぜか胸をなで下ろしていた。


「いや、そんなことに安心してる場合じゃ無いでしょ。534歳だよ?」

「まあ、そんなこともあるんじゃ無いかな?」


 アンにとっては自分より年上か年下かが重要でそれ以外の歳の幅は些事らしい。


「皆さんが驚かれるのも当然ですが、ギルドで働く以上はこの程度のことで驚かれてはやっていけませんよ。種明かしをすると、私の種族は妖精種です」


 シャスがそう言うと、妖精種のことを知っていたらしい新人職員の何人かが納得の表情を浮かべていた。


 妖精種とは、見た目こそ人間に酷似しているが成人した状態で自然発生する現象の一種と見られており、そのまま1000年ほど存在すると言われている。

 ほとんどの妖精種は森の中で緩いコミュニティーを築いて生活しているが、一部は人間と関わり人間社会の中で暮らしている。


 シャスはそんな妖精種の一人であった。


 フレイも知識としては妖精種のことを知ってはいたし、森で野良の妖精を見かけたこともあるが人間社会で労働を行う妖精を見たのは初めてだった。

 そもそも、妖精が一つの場所にとどまることは少なく、人間社会で暮らしていてもすぐに森に帰ってしまうことも多い。そういう意味でも働いている妖精という存在はとても珍しかった。


「すごいね、私の住んでた村だと人間以外いなかったのに。やっぱ都会だからかな?」

 アンが無邪気に小声で話しかけてきた。

「そうね。やっぱりこういう街だと多いのかもね」とフレイは曖昧に答える。


「そろそろいいですかね?」

 新人職員のザワつきが収まるのを待っていたシャスが問いかけた。大声ではないがよく通る声だ。


「では、このあとの動きについて説明します。これから、皆さんにギルドの中を案内します。この案内は、ギルドの仕事内容の説明を兼ねていますからしっかりと聞いておいてください。それから皆さんが配属になる部署を発表します。そうしたら、それぞれの部署の部屋に移動して説明を受けてください」


 シャスはここまで一息にしゃべり「何か質問はありますか?」と締めた。


 質問があるかと聞かれはしたが、質問が出るほど複雑な説明は受けていないので、誰も質問をしようとはしなかった。


「それでは、ギルドツアーを始めましょう。実は私も昨日採用されたばかりで分からないことだらけですが、一緒に勉強をしていきましょう」

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