第1話 出勤初日は同僚を宥める

「よし!」

 記念すべき初出勤日。フレイは気合いを入れて冒険者の街の中央にそびえるギルド本部にやってきた。


 冒険者ギルドは、地下深く続くダンジョンに挑む冒険者に対して支援や助言を行う組織だ。


 また、冒険者がダンジョンで見つけた貴重な遺物やモンスターの部位をギルドが買い取ったりもしている。まさに、冒険者にとってギルドは無くてはならない存在だ。

 

 昔は冒険者ギルドなどなく犯罪者崩れの連中が冒険者を名乗り勝手にダンジョンを探索していたという。

 しかし、当然ながら技術も情報も資金も無くダンジョンに挑戦した冒険者は、あるものは帰らぬ者となり、ある者はダンジョン探索のできない体になりただの犯罪者に身をやつすこととなった。


 そんな状況を嘆いた時の王が、負傷をした元冒険者に仕事を与える形で始めたのが冒険者ギルドであった。


 ギルドはダンジョンに関する情報を蓄積し、冒険者がパーディーを組むのを助け、冒険者に助言をし、冒険者が持ち帰った成果物を買い取り市場に流通させるなどの役割を持っている。


 つまり、安全なデスクワークだ。


 フレイはギルドの採用面接の際のやりとりでこのように言っていた。

「あなたはなぜギルド職員を志したのですか?」

「それはもちろん、安全安心の職場だからです!」


 このとき、ギルド幹部は苦笑いを浮かべていたが、それをフレイは自分があまりにも舐めたことを言ったせいだと思った。


なので付け加えた。


「あと、楽してお金が稼げると思ったからです!」


この時フレイは心底からお金を求めていた。つまり金欠であった。


「でも、合格したらこっちのものよね」


 そうつぶやいて、フレイはギルド本部の職員用出入り口に入っていった。


「おはようございます」

 職員用入り口から入ってすぐの場所には椅子が無造作に並べてあり、そこに歳の近い男女が数人座っていた。

「あ、おはようございます。今日が初めての方ですか?」

 座っていたうちの女性の方がそう聞いてきた。


「はい。今日からギルドでお世話になります。フレイです。よろしくお願いします!」

 何事もはじめが肝心とばかりにフレアは元気よく挨拶をした。「あの、私たちも新人なので。その、よろしくお願いしますね。わたし、アンといいます」

 

 どうやら新人職員が集められた部屋だったようで、もう一人いた同い年らしい男性も軽く会釈をしてきた。

「すみません。すごいちゃんとしていたので人事の方かとおもって」

 すかさず、勘違いをしたことを謝るがなぜか謝られたアンはなぜか沈んだ顔をしていた。

(あれ?なにかまずいこと言ったかな?)

 

 考えてみても、とくにまずいことは言っていない。すると

「あの、私ってそんなに老けて見えますか……?」


 アンが悲しそうな顔でそう聞いてきた。

 見ると、もう一人いた男がいかにもわざとらしく目をそらしている。

(なんだ、あの男が地雷を踏み抜いたとばっちりか)

 

 自分のせいでは無いとわかり安心はしたものの、目の前で落ち込むアンを放置して座るのも気が引ける。


 聞けば、昔から弟の世話をしていたらしい。そのうち母親と間違えられることが多くなり同級生からも敬語を使われるようになったとか。

 それで年上として扱われるのが嫌なのだと教えてくれた。


 最後に本当の歳を教えてもらったが、フレイより5つ歳上であった。聞けばアカデミーを何回か留年したらしい。


 同級生が敬語だったのはそれが理由では、と思いはしたが集合時間になって人事課のギルド職員がやってきたことでかろうじて言わずに済んだ。

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