間章4


「なんだって?」


 その日の昼休み、うちのクラスに弁当を持ってきた恭也と三人で飯を食うことにした俺とひなた。

 少し遠くから花園が羨ましそうに見てきているけど、今回ばかりはそれはスルーしておくことにした。


「いや、だからさ、今度部活が休みの日いつかなって。午前だけの日でもいいんだけど」


 怪訝な顔をする恭也に俺は改めて要件を伝える。


 いくら俺から誘うことが少ないとはいえ、友達の遊びの誘いにそんな顔するのは酷いと思うんだけど。


「お前が遊びに誘ってくるなんて珍しいな。どういう心境の変化だ?」


「いやいや、たまには恭也とも遊ぼうかなって思っただけだよ」


「ウソつけ」


 信じてくれない。

 日頃の行いって大事なんだなあ。


「……ひなたがスポッチャに行きたいって言っててさ」


 俺が突然自分の名前を出したからひなたはビクッと体を揺らす。

 ごめん、でも花園の名前は出せないから適当にそれっぽい言い訳考えるとそれしか思いつかなかったんだ。


「二人で行くよりはもうちょっと人がいた方が楽しいかなって思って。そこで名前が上がったのが恭也ってわけ」


 我ながら悪くない言い訳だ。現に、恭也も腕を組んで「なるほどね」と呟いている。


 スポッチャといえば様々なスポーツを楽しめる施設だ。

 それ以外にもゲームだったりカラオケまであったりするけど、二人で行くよりはもうちょっと人がいた方が楽しみ方は増えるだろう。


「まあ、そういうことなら全然いいけどよ。今度、体育館の点検かで一日オフの日があるんだよ。その日でよければ付き合うぜ」


「助かるよ」


 日程があれば付き合ってくれることは分かっていた。

 問題はむしろここからと言える。いかに自然な感じで花園倫子を誘い入れる方向に持っていけるかだ。


「三人で行くのか?」


 花園参戦までの流れはある程度考えていたが、その話の切り出し方に悩んでいたところ、恭也の方から振ってくれた。ありがたい。


「ああ、確かに奇数よりは偶数の方がいいか。あんまり大勢だと大変だから、あと一人くらい欲しいかもね」


「香月さんもいるんなら女子の方がいいんじゃねえの? 俺が友達誘うのは簡単だけど、その比率だとつまんないよな?」


 こいつ、俺達の作戦を知っているんじゃないのか?


 そう疑いたくなるくらいに自分から進んでゴールに向かってくれている。

 俺だけじゃなくひなたにしっかり気を遣っているところ、恭也がモテるのも分かる。


「それもそうだ」


「香月さん、友達誘えば?」


 ここまで来ればゴールテープが見えたようなものだ。恭也がこうも思い通りに動いてくれるんなら作戦を考えるまでもなかったな。


 本来であれば、残念ながらひなたにはこんなとき誘えるような友達はいない。

 なので「わたし友達いないの」という一言で終わってしまうが、今回は事前に仕込んであるから無問題だ。


「ワタシ、トモダチニナリタイヒトガイテ」


「ええ!?」


 めちゃくちゃ棒読みだ。

 そのあまりの大根役者っぷりに恭也も思わず声を出す。

 俺はあまりの酷さについこめかみを抑えてしまう。やけに口数が少ないと思ったら、緊張していたのか。


「あ、いや、なんかさ、この前体育の授業でペア組んだ女子が凄い良いやつだったみたいで。友達になりたいんだって」


「なんでお前が説明するんだよ」


「この前聞いたから」


「そんなことよりロボットみたいな話し方になった香月さんをスルーできねえよ」


 そりゃそうだ。俺が恭也の立場でも触れずにはいられない。


「言い出す機会を伺ってたんじゃないか?」


「それであの喋り方になる?」


「緊張しいだから」


「……まあいいけどさ。それって誰なの?」


 恭也が教室の中を見渡す。

 体育でペアになったという情報からこのクラスの誰かだと考えたのだろう。


 ひなたはその隙を見て、俺に手を合わせて謝ってくる。


「あの、花園さんっていう女の子で」


 ようやく落ち着いたのか、話し方がいつもの状態に戻ってくれた。


 男バスと女バスは何となく知り合い多いイメージなんだけど、恭也は花園のことを知ってるんだろうか。


「花園? ああ、リンコか」


「リンコ?」


「トモコさんじゃなかったっけ?」


「あだ名だよ。バスケ部じゃだいたいのヤツからそう呼ばれてるぜ」


 少し考えたけど、そういえば花園の名前は倫子だったっけ。なので読み方を変えたのだろう。


「知り合いなの?」


「んー、まあ知り合いっちゃ知り合いかな。そんなに仲良いわけじゃないけど、たまに喋ることはあるぜ」


「そうなんだ。じゃあ丁度いいから誘ってきてよ」


「は? なんで俺が。ここは香月さんだろ?」


「緊張しちゃうので」


「……彼女のケツは彼氏が拭くべきだろ」


「俺は女子との接点ほぼないから」


「……ポンコツカップルめ」


 恨めしそうに俺達を見た後、恭也は納得できないオーラを出しながら席を立って花園のところに行ってくれる。

 何だかんだ言っても行ってくれるのだから本当に良いやつだよ。


「上手くいったね」


「そうだな」


 恭也が誘えば花園はそれを承諾する。


 それでミッションコンプリートである。


 さらに俺はひなたとデートができるのだから言うことないな。

 そんな感じで、今週の日曜日の予定が埋まった。

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