第24話 覚悟
まあまあ長い須藤の一人語りが終わる。
多分だけど、須藤は嫉妬したのだろう。嫉妬から恋心を拗らせた須藤は現在こうした暴挙に出た。
須藤の気持ちがまるきり理解できないとは言えない。
だが、納得は出来ない。
まあ、それより気になったことが一つ……。
「な、なあ、俺は涼風さんと仲良かったのか?」
「は?」
須藤が信じられないものを見る蚊のような目を向けてくる。
「ふざけているのか?」
わなわなと身体を震わせる須藤。
俺がおちょくっているとでも思ったのだろう。
だが、俺は全くふざけてない。
去年、俺は特に何をするわけでもない平凡な学生だったはずだ。
高一の頃は冴えないどこにでもいる高校生で、高二になって偶然涼風さんの正体を知り、涼風さんを脅そうとするクズ。
それが俺が知る冴無良平というキャラクターだ。
いや、でもそれはゲームの話。
ここは現実だ。もし、この世界がゲームの世界に酷似しているだけなのだとしたら――。
「……なるほど」
その考えは須藤の一声で中断された。
顔を上げるとそこには、先ほどまでの怒りに染まった表情ではなく無表情の須藤の顔があった。
「つまり、こういうことだな。ボクにとっては羨ましい日々でも、お前には取るに足らない日常。そうやってボクよりも自分が優位だと言いたいんだな?」
「いや、それは違う」
「違わない! もういい。あの男がごちゃごちゃ言うから見逃してやるつもりだったが、ボクはもうお前を許さない! 行け! グレイトフル・ラブ!」
須藤のその言葉と共に、須藤の背後に控えていた醜悪な見た目の魔物が俺に襲い掛かる。
「明らかにそいつグレイトフル・ラブって見た目じゃねーだろ!」
「ボクの星羅への愛を侮辱しようとは、いい度胸だ!」
須藤の感情に呼応するかの如く、勢いを増し雄たけびを上げる魔物。
くそっ。
考えなきゃならないことがあるけど、今はそんなことを気にしている余裕が無い。
とにかく、今の最優先事項は涼風さんを守ること。
涼風さんの目を見る限り、俺が須藤にされたようにおかしな状態になっていることは間違いない。
なら、時間を稼げば涼風さんも正気を取り戻すはずだ。
これでも俺は二回も魔物と相対して生き残った悪運のある男だ。
少しくらいなら大丈夫――。
一瞬、風が吹き抜けたかと思った。
それがいつの間にか俺の目の前に姿を現し、俺の額に拳を向ける魔物拳圧だと気付くのにそう時間はかからなかった。
「次は当てる」
須藤の声が嫌に頭に響き、冷や汗がこめかみを伝う。
心臓の音がやけに大きく聞こえてくる。
「最後のチャンスだ」
未だ口を開くことも出来ない俺に須藤がにやけながら話しかける。
「今日のことを見なかったことにして、二度と星羅に関わらないと誓うなら、命だけは奪わないでおいてやる」
それだけ。
須藤の要求は変わらずそれだけだった。
俺に損はない。
ただ一人の少女の人生が狂う。それだけだ。
しかも、その少女は俺にとっては家族でも恋人でもない。
何が賢い選択かは誰の目からも一目瞭然だった。
魔物と須藤が答えを催促するように俺を見る。
須藤の横にはいまだ虚ろな目の涼風さんの姿があった。
答えはとうの昔に決まっていた。
「やだね」
期待通り。そう言わんばかりに須藤は笑った。
「なら、ここで死ね!!」
須藤が叫んだその瞬間にしゃがみこむ。
次の瞬間、風切り音と供に俺の頭上を魔物の拳が通過する。
ほぼ偶然だ。
魔物が拳を振り抜くと信じて、しゃがみこんでそれが当たっただけ。二度目はない。
だが、一度目で躱せれば十分だ。
俺が魔物の攻撃を躱したという事実に須藤が動揺している隙に魔物の股の下を潜り抜け、須藤の下に駆ける。
もし、この魔物が須藤の指示に従うのであれば、須藤を捕え盾にすれば魔物だって迂闊に攻撃できないはずだ。
魔物の動きに反応できなかった俺の姿を見た須藤は確実に俺を舐めている。
ここしかない。この一回だけが、最初で最後のチャンスだ。
「ッ! グレイトフル・ラブ! 早くこいつを止めろ!」
俺の狙いが自分だと気付いた須藤が叫ぶ。
その声に応じるように魔物が雄たけびを上げ、俺の背後から迫る。
しかし、魔物が俺に追いつくより俺の拳が須藤に届く方が早い!
「くたばれやあああ!!」
そして、俺が拳を振り抜いた。
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