第20話 須藤の計画
***<須藤>***
翌日の金曜日、教室に冴無の姿は無かった。
内心で笑みを浮かべつつ、鞄に忍び込ませた薬品を見る。
準備は万全だ。後は放課後を待つのみ。
「ん? どうした、須藤。そんなニヤついて。もしかしてエロ本でも持ってきたのか?」
そう言って、後ろの席に座る友人の佐藤が俺の鞄を覗き込んでこようとしたので、直ぐに鞄を閉じ、隠す。
「はは、何言ってるんだよ。そんなわけないだろ?」
「とか言って、実際はどうなんだー?」
「だから、違うって」
少しばかりしつこい佐藤に苛立ちつつ、佐藤の追及を逃れる。
全く、こういう時に限って口を出してくるのだから友人関係というのも面倒だ。
だが、彼らはボクが学校という小さな社会で上位に立つために必要な存在だ。これも、そのための必要な犠牲と割り切るとしよう。
放課後に楽しみにしているイベントがあるせいか、いつもより長く感じる授業を何度も乗り越え、そして遂に放課後がやって来た。
「須藤、明日土曜だし一緒にカラオケでも行こうぜ」
「えー、私たちもカラオケ行きたーい」
「お、いいねいいね! 男女で合コンカラオケデートと洒落こもうぜ!」
「何それ? 合コンとデートってどっちかにしろって感じ。てか、あたしらが求めてるのは須藤君だけだから。佐藤は家で寂しく砂糖でも舐めてろっての」
「佐藤が砂糖……ッ! ウケる!」
「なんでバカにされてるあんたが一番笑ってんのよ……」
後ろの席の佐藤を筆頭に次々と群がって来るクラスメイトたち。
そんな中、ボクは鞄を手に席を立つ。
「悪い、皆。ボク、今日は予定があるんだ」
「えー、予定ってなんのー?」
「佐藤が……ッ! 砂糖……ッ! ヒーッ……腹痛い……」
「あんたはいつまで笑ってんのよ」
何の予定か問いかける女子に微笑みかけ、教室を後にする。
後ろから不満げな声も聞こえてきたが、まあいいだろう。星羅を手に出来れば、彼らとの繋がりも終わりにしたっていいのだから。
図書室で夕方になるまで時間を潰してから、生徒たちが殆ど下校したタイミングで生徒会室へと向かう。
この日、星羅が生徒会の会議で遅くまで残っていることは既に分かっている。
今頃はきっと一人だろう。
ボクには好都合だ。
廊下を進み、生徒会室の扉を開ける。
中には、丁度帰るところだったのか鞄を持ち椅子から立ち上がろうとする星羅がいた。
ああ、美しい。
絹のような白銀の髪に、凛々しさを感じさせる瞳。ピンと伸びた背筋からは彼女の芯の強さのようなものまで感じる。
本当に、これから彼女のがボクのものになると思うとゾクゾクする。
「須藤君? どうかしたのかしら?」
どこか怪しむような視線をボクに向ける星羅。
中学生の頃のようなボクを心配する、慈愛の笑みはそこにない。
でも、ボクは分かっている。君のその態度が照れ隠しであること。
そうだろう? じゃなきゃ、このボクがフラれるなんてあり得ないし、星羅に避けられるなんて考えられない。
「さっき、担任の先生に星羅への届け物を頼まれてね。それを届けに来たんだよ」
「届け物?」
「ああ」
それっぽく偽造したプリントを片手に星羅に近づく。
流石は心優しき星羅というべきだろうか。ボクのことを信用して、簡単に間合いに入り込ませてくれた。
「おっと。ごめんごめん、落としちゃった」
わざと星羅の足元にプリントを落とせば、彼女は腰を落としてそのプリントを拾おうとする。
その瞬間、ボクは彼女の口をポケットに隠していたハンカチで覆う。
「ッ!?」
「逃がさないよ」
抵抗する星羅の身体を抱きしめる。
首筋からは、思わず舌なめずりしたくなるような甘く芳醇な香りがした。
「んーっ!」
「大丈夫。少しだけ気を失うだけさ。全てが終わればボクも星羅も幸せになれる。だから、おやすみ」
耳元で囁く。星羅は安心したのか、それとも予めハンカチに占め込ませていた催眠薬の効果が出たのか、力なくボクの胸に寄りかかって来た。
まあ、きっと前者だろう。
だって、ボクらは両想いなのだから。
「さて、後はゆっくり――」
星羅をボクの好みに染め上げるだけ。そう思った瞬間、パシャリというシャッター音が鳴り響いた。
「だ、誰だ!?」
「須藤王、この証拠をバラまかれたくなければ涼風さんから離れろ」
生徒会室の扉、そこにはカメラを構えるひょろひょろの眼鏡男子がいた。
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