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彼にとって『花』が生き物に見えているかいささが疑問が残るにしても。
「いまごろ、高い山の上では、サクラが満開ですか? 見てみたいですね! いきましょう! お花見! あしたあたり! ドーナツ買ってきますよ、ぼくお花見はじめてです!」
「まだ、ここで夏が来て、山の上ではやっと春だ」
「じゃぁ、夏にいきましょう! あ、でもやっぱりあしたいきましょう! 下見は必要です! だって博士もまだいったことないんでしょう?」
「タカーイ連峰はまだ雪のなかだ。キミ、で、その穴のないドーナツの中身を知りたくてこんなに買ってきたのかね」
それこそ山のように積まれたシェル型のドーナツを前に、博士は小さく、ため息をついた。
博士がベニツガザクラの研究をはじめたころにはもう、ソノクニとの国境であるタカーイカールを含むタカーイ連峰は事実上、立入禁止区域となっていた。
ましてやいまは紛争まっただなかだ。タカーイカールにはやはりとうぶん、いくことができないだろう。
博士にできるのは、博士がまだ助手であったころの博士が残した記録に、思いを馳せることだけだった。
ことしもまた夏が来て、
一年待って、
深い深い雪のしたで一年待って、
五ミリにも満たない
ベニツガザクラの花は可憐に、
カールの礫地を染め上げるのだろう。
ニンゲンの所業など、
素知らぬふりをして。
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