第二章 雨の日の体育館で

雨が降っている。


比較的、温暖な地域である僕達の中学校は雨が降ると、台風並みの雨粒を校舎に降り注ぐ。

体育館も例外ではなく、当時の安普請の建物はサッシュもイマイチで、何だか水槽の中にでもいるみたいにガラス窓を水没させていた。


それでも雨の影響の無い体育館の中は、ボールの弾む音、キュッキュとシューズが滑る音がこだまして、それなりの喧噪を響かせていた。


そんな中。

ぼそりと、山田の呟きが僕の耳に届いた。


「かーいー(可愛い)なぁ・・・」

2階の手すりにもたれて、ジッと下のフロアを見つめている。


僕の中学校の体育館は二階建て。

半分せりだしたフロアが卓球部のエリア。


山田の口元はニヤケ、自分のアイドルに向けて熱い視線を送っている。

2階のエリアは狭いながらも、我が卓球部の独占できる練習場だ。


背後では、数台の卓球台に白熱したラリーが展開されている。

ハードな練習が繰り返される中、僕達3年生が背中を丸めサボっている。


夏が過ぎ、代替わりしたクラブは2年生が主体。

3年生は半ば隠居状態の、お邪魔虫なのだ。


「やっぱ、いいわ・・・マーちゃん・・・」

山田は直接、呼んだこともない彼女のあだ名を、切ない表情で呟いている。


卓球部の2階フロアの手すりに三人並んで、下のフロアを眺めている。

まだ15歳になったか、ならないかなのだが。


殆ど、オッサン状態だ。

特に、山田は。


「山田・・・どうして、ここにいるの?」

赤石が聞いた。


中学生にしては背が高く、175㎝はあるだろう。

150㎝ちょっとの僕からしたら、羨ましくて仕方がない。


「えっ・・・・?」

とぼける声を出す、山田。


本当に、コイツの考えていることは僕には想像もつかない。

同じ歳なのに、いつも突拍子もつかないことを言いだす。


バスケ部のキャプテン。

成績も優秀。


顔も、そこそこ。

女子にもモテる・・・かな?


本人は何故か、不器用で。

いまだに彼女なし。


でも、好きな女の子はいる。

下のフロアでバレー部の本山さん。


小さくて、可愛い。

山田好みの大きな瞳の女の子だ。


「ラブレター渡す時ってさぁ・・・」

自信満々で僕達に演説する割には、告白歴無し。


いわば、ヘタレだ。


でも、僕は山田が好きだ。

おバカでも、コイツのバカ話には頷ける面がある。


だから。

僕は、迷ってるんだ。


僕の大好きな、あの子。

吉川由美に、告白することを。


僕も手すりにもたれながら、呟いた。

「かーいー(可愛い)なぁ・・・」

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