星剣のスコーピオ

鷹夏 翔(たかなつ かける)

第一章 蠍座の刃

星屑の涙

 空から落ちてきた一粒ひとつぶの星が、首都モスクワを含む大半の町とそこに住んでいた人々を消し去った。

 爆心地から離れていた御剣みつるぎ 昂輝こうきはそれを呆然ぼうぜんと見つめていた。しかし、ハッとわれに返る。


(アーニャ! 紬星つむぎ!)


 星が落ちた町には妻と娘がいる。いても立ってもいられなくなった昂輝は町へ向かおうとしたのだが……。


「どこに行くんだ! コウキ!」


 同僚かつ義兄であるダニール・エヴァノフが、昂輝の腕をつかんだ。


「アーニャたちを迎えにいく!」


 昂輝はダニールの手を振りほどこうとする。だが、ダニールは手を離さない。


「……コウキ」

「助かっているかもしれないだろ! だから――」

「現実を見ろ!! コウキ!!」


 ダニールが声を張りあげる。普段あまり声を荒らげない義兄に、昂輝は驚いて言葉をつかえた。


「アーニャとツムギは……死んだ」


 声を震わせながら、ダニールは言う。

 昂輝は、その言葉を受けとめたくなかった。恐る恐る目の前に広がる情景へ視線をやる。

 町も、人も、星屑ほしくずとなって消滅し、なにもない真っ白な大地だけが残った。


「うぅあああ……あぁああああああ!!」


 昂輝は引きつった声をだし、その場に泣き崩れるしかなかった。

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