おっさんの口臭は最恐で最強です!

彩乃亜

第1話 43歳独身のおっさん、口臭によって職を失う

俺とこいつとの付き合いはかれこれ40年近くなる。

初めて自分がおかしいと思ったのは幼稚園の時。無邪気な園児たちに「なんか臭い」と言われたのがきっかけだった。

多分先生方も臭いと感じていたようで、お昼の後は何故か自分だけ念入りに歯を磨かれていた記憶がある。もちろんその頃は大好きな先生を誰よりも長く占領できたことへの優越感しかなかったが。

母も俺の口臭は気にしていたようで、毎日食後は必ず母が歯磨きをしてくれていた。


小学校に上がってからも、口臭のせいで周りからいじめられるということもなく、毎日マスクをしているへんなやつと認識されつつ、それなりに学校生活を満喫していた。


流れが変わってきたのは中学3年の頃。コイツは口が臭いから毎日マスクをしているらしいと言う噂がまことしやかに流れた。その結果俺はボッチになった。

この頃は母親もほとんど家におらず、身内でニオイを指摘してくれる人は皆無だった。


ボッチになり、やることが勉強しかなかったため無駄にいい成績をおさめることができ、高校も大学もそれなりに良いところに進学した。


意外にも難儀したのは就職活動だ。

マスクをつけたまま面接を受けるわけにもいかずに、かなり難航した。

たまたまとある企業がオンライン面接を取り入れていたおかげで命拾いしたが。


まぁ、そんなこんなで無事に就職した職場も今日でさよならだ。

なんでも複数人から口臭に対する苦情が来たらしい。


上司は理解ある人で、数時間おきに歯磨きに立つことも黙認してくれていたが、こればっかりは仕方がない。



たった今、最終出勤を終えて帰宅している。

どんなに歯磨きをしても、口臭対策スプレーをしても、タブレットを噛んでも、食事を気をつけても。対策をした数時間後には嫌な匂いがする。病院に行ってみても鼻で笑われるだけ。

ただし、マスクをすれば周りへの被害は最小限に抑えられるため、現状ではマスクをするしか対策のしようがない。


お金は今までの稼ぎやら株やらで困ることはない。

もう頑張って人と接する必要もないかもしれない。


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