曰くつきのレストラン
ニート
第1話
レストランの開店準備のために、朝早く出勤してきた真吾は、店の鍵を開ける前にまずトイレに入った。そこで鏡を見てネクタイを直していると、背後に人の気配を感じた。振り返ると、洗面所の扉の前に若い女が立っていた。
「あのう、すみません」
彼女は遠慮がちに声をかけてきた。
「はい?」
真吾は振り向いて返事をした。
「ここって、幽霊が出るって噂があるところですよね」
「ええ、まあ……」真吾は曖昧な表情を浮かべながら答えた。
「あたし、そういうの信じないタイプなんだけど、友達の中には結構怖がる子がいるもんで……。もし本当だとしたら困っちゃいますよね」
「そうなんですか」
真吾は再び視線を自分の顔に戻してネクタイを締め直しはじめた。
「それで、その……このお店で昔働いていた人っているんですか?」
「さあ……いたかもしれないけど、今は知りませんねえ」
「そうですか」
それだけ言うと、女性は小走りに立ち去った。
開店時間になると、客が次々と入ってきて、店内はあっと言う間に満席になった。真吾は忙しく立ち働きながらも、先ほどの女性のことを気にかけていた。
閉店後、店長に呼ばれて、真吾は厨房の奥にある休憩室に案内された。そこには店のマネージャーである中年の女性がいた。
「ちょっとこれ見てくれる?」と言って、彼は一枚の写真を差し出した。写真には一組の男女の姿が写っていた。どちらも二十代半ばぐらいだと思われる。男は黒いスーツを着ていて、女は白いブラウス姿だった。二人は寄り添うようにして立っているのだが、男の方はなぜか女の肩を抱いており、親密な雰囲気を感じさせる。
「これは?」と真吾は訊ねた。
「あんたが昨日言ってた幽霊の話と関係あるんじゃないかと思うんだけどね」
「これが幽霊だって言いたいんですか?」
「違うかい? この二人のどっちかが、幽霊の正体なんだろうよ。うちの店じゃあ、女の子が二人も辞めちまったんだからね」
「だから僕を呼んだわけですね」
「そういうことだよ。何か知ってたら教えてくれないか」
「いや、何も知らないんですよ。僕は雇われの身ですから、そんなに詳しいことは聞かないし、教えられてもいないんです」
「そうかね。でも、これだけは言っとくよ。もし幽霊を見たとか、変な物音を聞いたとかいうようなことがあったら、必ず報告すること。いいね」
「分かりました」
「それからもう一つ。幽霊が出たっていう話は絶対に他の人にしゃべらないように。どんな噂になるか分かったもんじゃない。それと、この件に関しては一切口外しないこと。いいね」
「はい」
真吾は部屋を出た。
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