第9話 共闘!柘榴石&蒼玉

 ──時は少し遡り、作戦を開始した頃。怪盗ガーネットとアクシオは、『ローゼオ博物館』で待ち伏せしていた。


[ここからガーネット視点。]

「探偵さん、こっちは大丈夫よ。そっちはどう?」


『ああ。問題ない』


 サファイアの探偵さんの声が、通信機から聞こえてくる。私たちは、パパラチアサファイアが置かれている部屋で待機していた。


「それなら良かったわ。……ところで、怪盗の気配は感じた?」


『いいや。今のところは感じていないな』


「そう……。私も、特に怪しい人影は見かけなかったわ」


 私はそう答えた。すると、探偵さんの『僕も同じだよ』という声が聞こえてきた。


『……なあ、ガーネット』


「なにかしら?」


『……君は、怪盗を辞める気はないのか?』


 探偵さんは突然そんなことを聞いてきた。


「……どうして、急にそんなことを聞くの?」


『いや……。君はまだ学生くらいの歳に見えるから……。他にやりたいことがあったりするんじゃないかと思ったんだ』


「……そうね。確かに、他の道もあったかもしれない」


 私がそう言うと、探偵さんは『やっぱり……』と言った。


『……だったら、何故怪盗なんかを?』


「……それは、原石が好きだったからよ。私は原石を自分の手で加工したい……そう思っていたの」


『それなら、盗まなくても出来るじゃないか……。どうして盗んだりなんか……』


 探偵さんは困惑した様子で聞いてきた。……スクリームにも、同じことを聞かれたことがあったっけ……。


「そんなの、飾ってある原石の方が価値が高いからに決まってるじゃない。それに、宝石を盗む方が楽しいし……」


『……なっ!?楽しむために、盗みを働いているのか!?』


「ええ……。もちろんよ」


 私はそう即答する。


「……でも、最近はそれだけじゃなくて、怪盗をしていることが楽しくなってきているのよね」


 ……これは、確かにそう。原石を盗もうとして、スクリーム──ストノスに出会って……。一緒に怪盗をするようになってから、毎日が楽しくなった。


『……そうか。……僕は、君の考えが理解できないよ。盗みが楽しいだなんて……』


「そうね……。あなたはきっと、そういう考え方は出来ないでしょうね」


『……ああ。絶対に無理だ』


 私はフッと笑みをこぼす。


「でも、それがあなたの良いところだと思うわ」


『……えっ?』


「あなたは真面目過ぎるのよ。もう少し、肩の力を抜いた方がいいんじゃない?……まあ、あなたが真面目だからこそ、今まで事件を解決できたのかもしれないけど……」


『……そうだな。君の言う通りだ。少しだけ、楽になった気がする。……だが、君たちのやったことは決して許されることではない。だから、どんな事情があったとしても、怪盗を続けるのならば、必ず捕まえる』


「あら……。それは怖いわね……」


 私はクスリと笑う。


『……笑い事じゃないぞ?覚悟しておいた方が良い』


「フフッ……。そうみたいね」


『……ところで、気づいているか?部屋の外がやけに静かだということに』


 探偵さんの言葉に、私は耳を澄ませる。

 ……確かに、不自然に静かだわ。警備員がいるなら、何か話していてもおかしくないはずなのに……。もしかして……。嫌な予感が頭をよぎる。……まさか!


「宝石泥棒が来た可能性があるわ。すぐに外に出て、警戒してちょうだい!」


 私がそう言った直後、部屋のドアが勢いよく開いたかと思うと、誰かが飛び込んできた。


「きゃははっ!『怪盗ペリドット』ここに参上~!……ってあれ?誰よアンタたち!!」


 飛び込んで来た人物は、緑髪の女性だった。怪盗ペリドットと名乗った彼女は、私たちを見て驚いたように声を上げる。


「私は『怪盗ガーネット』!宝石泥棒さん、そこまでよ!」


「僕はアクシオ!探偵だ!……お前を窃盗の容疑で逮捕する!」


 アクシオがそう宣言したが、怪盗ペリドットは不敵な笑みを浮かべると、懐から何かを取り出した。


「アタシを逮捕ですって?ふん!やってみなさいよ!返り討ちにしてくれるわ!」


「……なに!?」


「喰らいなさーいっ!」


 怪盗ペリドットは、手に持っていたものをこちらに向かって投げた。その瞬間、辺りには煙が立ち込める。


「きゃっ……なにこれ……。何も見えない……」


「ガーネット!気をつけろ!この匂い……睡眠薬だ!」


 探偵さんが叫ぶ。私は慌ててポケットからハンカチを取り出し、口元に当てた。


「……あははっ!残念でしたー!それじゃあね!ばいばーい!」


「待てっ!」


 怪盗ペリドットは高らかに笑うと、部屋から出て行った。


「くっ……!ガーネット、大丈夫か!?とりあえずここから脱出しよう!」


「わかったわ!」


***

 なんとか部屋から脱出した私たちは、博物館の外に出ていた。


「逃がしちゃったわね……」


「ああ……。だが、去り際に発信器を付けられたはずだ。これで奴の居場所を突き止められるだろう」


 探偵さんはそう言って、小さな機械を見せてくれた。


「さすがね。頼りになるわ」


「当然だ。……どうやら、近くの建物内にいるようだ。僕は警察に応援を頼むから、先に行って様子を見てきてくれるかい?」


「わかったわ。……くれぐれも無茶はしないでね?」


「ああ。わかっているさ」


 探偵さんと別れた後、私は建物のある方へと走っていった。


***

「ここがそうなのかしら……?」


 しばらく走ると、大きな建物が見えた。おそらく、あの中ね……。


「よし!行くわよ!」


 私は建物の入口へと向かう。こっそり覗くと、中から誰かの話し声が聞こえてきた。


『……もう!ルビーったら、全然連絡つかないじゃん!……宝石も盗めなかったし、最悪~!』


 見ると、怪盗ペリドットが独り言を言っているようだった。

 ……発信器には気づいていないみたいね。しばらくはここを動かなそうだし、探偵さんが来るまで見張ってましょう……。

 私は物陰に隠れながら、彼女の様子をうかがうことにした。


***

 それからしばらくして、探偵さんがやって来た。


「……!ガーネット!無事か!?」


「ええ。私は平気よ。それより、ペリドットはまだここにいるわ」


「そうか……。それなら良かった。今のうちに、彼女を拘束するぞ」


 探偵さんはホッとした表情を見せたあと、真剣な顔でそう言った。


「ええ。わかったわ」


 私たちはアイコンタクトを取ると、慎重に近づいていく。そして、背後からペリドットを取り押さえた。


「なっ……!?アンタたちは……!」


「大人しくしろ!」


「ちょっ……!離してよっ!」


 探偵さんがそう言うと、ペリドットは暴れ出す。


「……おとなしくしてちょうだい。あなたはもう逃げられないわ」


 私はそう言いつつ、彼女の手首をロープで縛る。……うん!上手くいったわ!


「ちょっと!なんでこんなことするのよ!……いいもん!アタシにはルビーがいるし!」


 ペリドットは強気にそう言い放った。……ルビー?仲間がいたのね。一体どこに……。


「ねえ。あなたの仲間はどこにいるの?」


 私が聞くと、ペリドットはニヤリと笑ってこう答えた。


「ふっ……。教えて欲しい?」


「ええ。もちろん」


「ルビーは、今頃『シーニー博物館』にいるわ!パライバトルマリンも盗み出しているはずよ!」


「……それはどうかな?」


 ペリドットの言葉に探偵さんはそう呟くと、スマホを取り出して音声を再生した。


『……アクシオさんっ!怪盗ルビーは、捕まえましたよっ!……ほら!あなたもなんとか言ったらどうですかっ!』


『……うぅ……ペリドット、ごめん……。俺、捕まっちまった……。助けてくれ……』


 その音声は、レイアとルビーの声だった。


「なっ……!?どうしてルビーが……!」


 ペリドットは驚いている。


「君の仲間の方には、僕の助手たちが待ち伏せしていたのさ。残念だが、君の負けだよ」


 探偵さんは冷静にそう告げた。


「そんな……!嘘でしょ!?」


「いや、本当さ。……さあ、来るんだ」


「うぅ~!悔しい~!!」


 ペリドットはそう言い残すと、警察に連れて行かれたのだった。

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