第8話 共闘!翠玉&紫水晶

 夜。俺たちは、アクシオの探偵事務所で作戦会議をしていた。ちなみに、ここへは怪盗として来ている。


「こっちで博物館のことを調べてみたんだが……。どう配置するのか決めないとな」


「ああ。『シーニー博物館』と『ローゼオ博物館』だったな」


 アクシオはそう言って、机に広げた地図を指差す。


「まずは『シーニー博物館』だが、ここはこの場から遠い。それにセキュリティも万全だから、そこまで警戒しなくても大丈夫だと思う」


「そうだな……」


「次に『ローゼオ博物館』なんだが、こちらはアレキサンドライトが盗まれた場所から近いところにあるんだ」


 アクシオは地図にペンで印をつける。


「そうね……。この距離の差は大きいかも……」


「ああ。だから、僕としては『シーニー博物館』よりも『ローゼオ博物館』の方を見張りたい」


「……それなら、俺と助手の嬢ちゃんが『シーニー博物館』。お前とガーネットが『ローゼオ博物館』を守ればいいんじゃないか?」


 俺はそう提案してみる。


「そうだな。そうしてもらえるとありがたい」


 ……よし。後は……


「……ガーネットはそれでいいか?」


「私は構わないわよ。あなたがそう言うなら」


 ガーネットはそう言って微笑む。


「じゃあ、決まりだな。『シーニー博物館』は俺が見ておくから、『ローゼオ博物館』は任せたぞ。……レイア、だっけ?よろしくな!」


「むぅ……怪盗と組むのは不本意ですが、今回ばかりは仕方ありません……。……こちらこそ、お願いします……」


 助手の嬢ちゃんは不服そうな表情をしていたが、渋々と頭を下げる。


「よし。じゃあ、作戦開始といこうか!」


「ああ!絶対に宝石泥棒を捕まえよう!」


 俺が拳を突き上げると、アクシオが力強く答える。


「ええ!頑張っていきましょう!」


「はいっ!頑張りますっ!」


 ガーネットとレイアが、元気良く返事をした。


***

 ──作戦当日の夜。怪盗スクリームとレイアは、『シーニー博物館』で宝石泥棒が来るのを待ち伏せしていた。


[ここからスクリーム視点。]

「……嬢ちゃん、大丈夫か?」


『はいっ!こちらは問題ありませんっ!』


 俺たちは通信機を使って会話する。この通信機は、探偵側が用意してくれたものだ。

 俺は今、パライバトルマリンが置かれている部屋で、柱の陰に隠れている。ちなみに、嬢ちゃんは反対側の柱の陰にいて、そこから俺に通信機で連絡をしているのだ。


「……今のところ、怪しい奴が来たりはしていないみたいだしなぁ……。……このまま何も起こらない方が楽なんだけどな」


『そうですね……。それが一番良いのですが……』


 そこで会話は途切れる。少し気まずいな……。

 俺は、ガーネットやアクシオとだったら普通に話せるのだが、嬢ちゃんとは接点が少ないから、何を話せばいいのかわからないんだよな……。


『……あっ、あの!』


「うおっ!?どうした?」


 突然話しかけられて、俺は思わず驚く。


『その……あなたはどうして、怪盗なんかをするようになったんですか……?』


 嬢ちゃんの声からは、緊張している様子が伝わってきた。


「んー……。それは、いろいろと事情があってな……。簡単に言えば、成り行きみたいな感じだ」


『成り行き、ですかっ……?』


「まあな……。俺は、ガーネットから『一緒に怪盗をやりましょう』って誘われたんだよ」


 俺はその時のことを思い出す。急に言われた時は驚いたっけ……。


『怪盗ガーネットから……!?あなたは断らなかったんですかっ!?』


 嬢ちゃんは驚いているようだ。


「いやまあ、最初は断ったけどな……。でも、いざ始めてみるとなかなか楽しくてな。今では俺から提案したりもしてるんだ」


 ……これは本当だ。俺はガーネット──エピカと出会って、怪盗をするようになってから、毎日が充実していた。


『そうだったんですか……。でも、盗みを働くのは、いけないことですよっ!』


「はは……。それはわかってるよ……。その証拠に、盗んだ宝石はちゃんと返しているだろう?」


 俺が言うと、嬢ちゃんは『それでも、良くないことはダメなんですよっ』と言う。真面目だな……。


『でも……、どうしてそんなことをするのかわかりません……。あなたには、もっと別の道があったんじゃないでしょうか……』


「……まあ、そうだな……。俺にもわからん」


 俺は苦笑しながら言った。


『わからない……?どういう意味ですかっ?』


「俺自身、何でこんなことをしているのか、時々わからなくなることがあるんだ。……だけど、これだけは言える。俺は、怪盗をやるようになって良かったと思ってる」


『そう……なんですか……』


 そう言うと、嬢ちゃんは黙り込んでしまった。俺は再び口を開こうとしたが、部屋の外で何かが動くような音が聞こえたので、慌てて通信機の音量を下げて、小声で話す。


「(嬢ちゃん、聞こえるか?)」


『はい……。どうしましたか?スクリームさん』


「(誰か来たようだ。おそらく、宝石泥棒かもしれない)」


『ええっ!そ、それじゃあ、早く捕まえないとっ!』


 嬢ちゃんは慌てた声で言う。


「(落ち着けって……。まだ、こっちの姿は見られてないし、向こうはまだ俺たちがここにいることに気づいていないはずだ。……だから、もう少し様子を見てみようと思うんだが、いいか?)」


『は、はいっ……。わかりました……』


 ……よし。これでいいな。

 俺は深呼吸をして気持ちを整える。

 そこへ、部屋に1人の男が入ってきた。赤髪の若そうな男だ。


「ふぅ……。チョロいもんだな。警備員を眠らせておいて正解だったぜ……」


 男はそう呟くと、俺たちが見張っているパライバトルマリンのケースへと近づいてくる。

 ……コイツが宝石泥棒だな。間違いなさそうだ。


『ど、どうしましょう……?スクリームさん……』


 嬢ちゃんが不安げに聞いてきたので、俺はできるだけ平静を装いながら答える。


「(とりあえず、アイツがこっちへ来たら、俺が背後から襲いかかる。嬢ちゃんには援護を頼む)」


『わ、わかりました……。気をつけてくださいねっ』


「ああ……。任せろ」


 俺はそう言って、ニヤリと笑う。そして、タイミングを見計らって、男の背後に忍び寄った。


「さーてと……。まずは、このパライバトルマリンをいただ──」


「……そこまでだ!」


 俺は男の背中に向かって、思い切り飛び蹴りを食らわせる。


「ぐへぇっ!」


 男は変な悲鳴を上げて吹っ飛んだ。……よし!上手くいった!


「だ、誰だっ!」


 男はよろめきながら立ち上がると、俺の方を振り返る。


「……俺を知らないのか?俺は『怪盗スクリーム』だ!お前のような泥棒とは、一味違うぜ!」


 俺はそう言ってポーズを決める。……決まった!我ながらカッコいいぜ!


「『怪盗スクリーム』だと……?フン!俺だって怪盗だ!『怪盗ルビー』とでも名乗っておこう。さらばだ!」


 俺が格好つけている間に、怪盗ルビーと名乗った男は逃げ出そうとする。


「なっ……おい!少しは俺の話を……」


「何をしてるんですかっ!早く追いかけますよっ!!」


 俺が戸惑っていると、後ろから嬢ちゃんの声が飛んできた。


「あ、ああ!わかった!」


 俺は急いで走り出す。……だが、俺よりも嬢ちゃんの方が足が速かったようで、すぐに追い抜かれてしまった。さすが、若者って感じだな……。


***

 俺が追い付いた頃には、怪盗ルビーは嬢ちゃんによって壁際に追い詰められていた。周りには警備員の姿もある。


「あなたを、窃盗の現行犯で逮捕しますっ!」


 嬢ちゃんがそう言うと、警備員たちは一斉に怪盗ルビーを取り押さえる。


「くっ……!離せっ!」


 ルビーは抵抗していたが、こんなことを言い出した。


「くそっ……まあいい。俺には仲間がいるんだ!今頃、もう一つの宝石が盗まれているはずだ!俺を捕まえても無駄だぞ……!」


 ……なにっ!?まさか、もう既にパパラチアサファイアが奪われているっていうのか!?

 俺は焦ったが、あっちにはガーネットたちが先回りしていることを思い出した。


 ……ガーネット、無事でいてくれよ……!

 俺は心の中でそう祈ったのだった。

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