第4話 願いが叶うダイヤモンド?(中編)
翌日。俺は、エピカに部屋に呼ばれていた。
「どうしたんだ……?こんな朝っぱらから……」
眠たい眼を擦りながら尋ねると、エピカはホープダイヤモンドを俺に見せてきた。
「私、昨日何を願おうか考えたのだけれど……」
「へぇ……。それで、決まったのか?」
「……願いなんて、どうでもよくなっちゃったのよ」
……は?今なんて言ったんだ?
「おい、それって……」
「このダイヤモンドさえ手に入れば、私はそれでいいのよ~」
エピカは俺の話も聞かずに、ダイヤモンドを
……なんだ?いつもと様子が違うな……。
「なあ、エピカ……。お前本当にエピカなのか……?」
「ええ、もちろんよ!……あぁ、なんて美しいの……。これが私のものに……」
エピカはそう言い、頬に手を当ててウットリとしている。
俺はなんだか恐ろしくなってしまい、部屋から逃げ出した。
「……一体、どうしちまったんだ?あんなに願いにこだわっていたのに……」
俺は頭を抱えて呟いた。
「……まあ、そのうち戻るだろ……」
俺はそう自分に言い聞かせて、気持ちを切り替えることにした。
***
それから、数日が経った。
……結果から言おう。エピカは元のようには戻らなかった。むしろ悪化して、今では完全にダイヤに魅せられてしまっている。
エピカは毎日のように『ホープダイヤモンド』を見ていて、それ以外のことは目に入っていないようだ。そして、よく一人でぶつくさと独り言を言い、不気味な笑みを浮かべている。
正直、怖い……。俺はなんとかしたいと思っているのだが、エピカは俺のことが見えていないようで、全く相手にしてくれなかった。……くっ!どうすればいいんだよ!
「はあ……。どうすりゃいいんだ……?」
俺はため息をつくと、ベッドに寝転がった。その時、コンコンとノックの音が聞こえた。
「はい?」
「ストノスさん、いらっしゃいますか」
この声は、エピカの執事のプロムスさんだ。
「はい。どうかしましたか?」
俺が答えると、プロムスさんは深刻そうな顔をして言った。
「実は、エピカ様が……」
エピカが?……嫌な予感がする……。俺は急いで部屋へと向かった。
***
「エピカ……?」
部屋に入った俺は、その光景に絶句してしまった。そこには、ベッドの上でぐったりと横になっているエピカの姿があったからだ。
「大丈夫か!?」
俺は慌てて駆け寄ると、エピカの身体に触れた。……熱い!熱があるのか……?それにしても、酷い汗だ……。
「……うぅっ」
エピカは苦しそうにうめく。うなされているようだ。
「医者を呼ばないと……!」
俺は部屋を出て行こうとしたが、遅れてやってきたプロムスさんに止められた。
「……お医者様には診せました。ですが、原因はわからないそうです……」
プロムスさんは悲しげに首を振る。
「そんな……!」
俺は思わず叫んだ。
「とにかく、今は安静にするしかありません。……すみませんが、よろしくお願いします」
「……わかりました」
俺がそう言うと、プロムスさんは部屋を出ていった。
エピカは相変わらず苦しそうにしている。
「……なんなんだよ、ちくしょう!」
俺は怒りに任せて拳を壁に叩きつけた。だが、こんなことをしても意味がない。俺は大きく深呼吸をして、冷静になることにした。
……そうだ!こういう時は、落ち着くのが一番だ。まずは、状況を整理しよう。俺はそう思い立ち、エピカがおかしくなったきっかけがないか考える。
……そういえば、あの時もおかしかったな……。確か、ホープダイヤモンドを手に入れた後だった……。ホープダイヤモンドには何かあるのか?
気になった俺は、自室へ戻ってパソコンで調べることにした。
「えっと……あった!……なんだこれ?……『呪われた宝石』、『持つ者の魂を奪う』……?嘘だろ……?」
俺は背筋が凍るような感覚を覚えた。
「……『そのダイヤモンドを手にした者は、その美しさに魅了され、やがて狂ってしまう』……だって……!?」
俺は震える手でマウスを操作し、続きを読む。
「『ホープダイヤモンドは、元は普通のダイヤモンドだったが、持ち主が次々と死んでいくという事件が起こり、いつしか《呪われている》という噂が流れるようになった。そのため、現在はディアマント博物館に保管されている』……?マジかよ……」
……なんてことだ。エピカはホープダイヤモンドを手にしてしまったばかりに、ダイヤモンドの魔力に取り憑かれてしまったのだ。
「とにかく、何とかしないと……」
このままでは取り返しのつかないことになってしまう。……しかし、どうしたらいいんだ……?
考えているうちに夜になってしまった。俺は仕方なく眠ることにし、布団に入る。
***
……翌朝。俺は目を覚ますと、すぐに呪いを解く方法をパソコンで調べ始めた。
「……ダメだ。いくら検索をかけても、『ホープダイヤモンドの呪いを解く方法』なんてものは出てこない……。くそ!どうすれば……」
俺は頭を抱えた。……呪いに効くもの……。本当に『願いを叶えてくれる宝石』でもあれば……。もしかしたら、そういう類の宝石なら効果があるかもしれない……。
「よし!探してみるか……!」
俺は再びパソコンを操作する。すると、こんな記事が出てきた。
『三つの願いが叶う宝石──トリプライト』
「これは……!」
俺は食い入るように画面を見つめる。
「『トリプライト』……!『三つの願いを叶える』……!間違いない!きっと、これが『願いを叶える宝石』だ!」
俺は興奮気味に叫ぶと、記事を読み進めていった。
「『この宝石の原石は、ツェーン博物館に展示されている』か……。……そういえば、エピカと初めて会ったのも、ここだったな……」
俺は記憶を頼りに、ツェーン博物館に向かうことにした。
***
「ここだな……」
俺は辺りを見回しながら呟いた。今の俺は『怪盗スクリーム』の格好をしている。
……本当なら盗みなんかしたくないんだけどな……。まあ、仕方ない……。これも全部ダイヤモンドのせいだ……。
俺は心の中で愚痴ると、ゆっくりと扉を開ける。中には誰もいないようだ……。俺は足音を立てないように、奥へと進んで行った。
「あれか……」
目的の物を見つけた俺は、それを確認するために歩みを止める。
展示ケースには、サーモンピンクの輝きを放つ原石が飾られていた。
これがトリプライトか……。近くで見ると、ますます綺麗だ……。
ケースには、鍵が掛かっているようだ。だが、このタイプの錠前なら、簡単に開けられるだろう……。俺はポケットから針金を取り出すと、早速作業を始めた。
……ガチャリ。
「開いた……」
思っていたよりもあっさりと開いてしまった……。もう少し苦労するかと思ったんだが……。まあ、いいか……。
俺はトリプライト原石をケースから出すと、手に取って眺めてみた。
「綺麗だ……」
トリプライトは、まるで吸い込まれてしまいそうな輝きを放っている。
「さて……。あとは帰るだけだな……」
俺はトリプライトをハンカチで包むと、出口へと向かう。……その時、誰かから声をかけられた。
──「貴様!何をしている!」
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