第3話 願いが叶うダイヤモンド?(前編)
ある日のこと。
「ストノス!いるかしら?」
俺が部屋で休んでいると、エピカが部屋に入ってきた。
毎度毎度、急に入ってくるなよ……。
「いるけど……どうしたんだ……?」
俺が尋ねると、エピカはニッコリと笑って言った。
「今日は、ダイヤモンドを盗みに行くわよ!」
「……ダイヤモンド?」
「もう!前に約束したじゃない!忘れたとは言わせないわよ?」
エピカが頬を膨らませて言ってきた。
「あー……。あれか……」
俺は苦笑いすると、記憶を探ってみた。
……確かにそんなこと言っていたな……。願いが叶うダイヤモンド、だっけか……。
「それで、いつ盗むんだ?」
「もちろん、今夜に決まっているわ!」
「おいおい……もっと計画的にだな……」
「善は急げよ!」
エピカは自信満々に胸を張って答えた。
「……はあ。わかったよ……」
「それなら決まりね!」
エピカは満足そうにしている。……ったく、仕方ないな……。
「……で、そのダイヤモンドはどこに展示してあるんだ?」
願いが叶うダイヤモンドだなんて、そう簡単に手に入るものじゃないだろう。それ相応の場所に置いてあるはずだ。
俺が尋ねると、エピカは「ちょっと待ってて!」と言って部屋を出ていった。
少しして、エピカはパソコンを持って戻ってきた。そして、それを起動させると、画面を俺に見せてきた。
「どれどれ……?『ディアマント博物館』か……」
「そうよ!この博物館は、ダイヤモンドがたくさん集められていることで有名なんだから!」
エピカは興奮気味に説明した。
「なるほどな……。で、どうやって忍び込むつもりなんだ?正面からは無理だと思うぞ?警備も厳重みたいだしな」
俺が指摘すると、エピカは「任せときなさい!」と言い、カタカタとキーボードを叩き始めた。すると、画面に地図が表示された。
「この博物館には隠し通路があるの。そこを使えば、誰にも見つかることなく侵入できるわ!」
エピカがドヤ顔で言うと、俺は感心して言った。
「ほう……よく調べたな」
「当たり前よ!」
エピカは得意気だ。……なんというか、さすがだな……。
「それじゃあ、今夜の作戦について話すわね!」
エピカはそう言って語りだした。
「まず、私が警備員を引きつけるから、その間にストノスはダイヤのある場所に行ってちょうだい!」
「了解だ」
俺は短く答えると、疑問に思ったことを聞いてみた。
「引きつけた後、お前一人で大丈夫なのか?」
……いくらなんでも無謀すぎる気がするが……。
「ええ、問題ないわ!それに、私の運動神経が良いのを知ってるでしょう?だから、安心して待っていて!」
そう言うエピカの顔はとても頼もしそうに見えた。……まあ、本人がこう言っているんだしな……。ここは信じてやるか。
「……わかったよ。だが、絶対に怪我するんじゃねぇぞ?」
「ええ!心配してくれてありがとう!でも、私はこれでも怪盗よ!自分の身は自分で守るし、捕まったりなんかしないわ!」
エピカはそう言うと、不敵に笑った。俺はやれやれと肩をすくめたのだった。
***
そしてその夜。俺たちは『怪盗ガーネット』と『怪盗スクリーム』となって、ディアマント博物館へ来ていた。
「よし……。準備はいいか?」
俺はガーネットに確認した。ガーネットは「いつでもいいわ!」と答えた。
「それじゃ、行くぞ……!」
俺はそう言うと、ガーネットとともに薄暗い館内へと足を踏み入れた。
「さて、ダイヤモンドはどこだ……?」
俺は辺りを見回しながら呟いた。
「確か、情報だと東側にあるはずよ」
隣にいるガーネットが言った。
「そうか……。それじゃあ、東の方から探して行くか」
「そうね」
俺たちはそう決めると、ゆっくりと移動を始めた。……おかしいな……。ここまで来るのに、誰ともすれ違わなかった……。
「……なあ、妙に静か過ぎねぇか?警備員の一人くらいいてもおかしくなさそうだが……」
俺がそう言うと、ガーネットは不思議そうな顔をした。
「そうかしら?」
「ああ……。普通、何かしらの警報が鳴るもんなんじゃないか……?」
「まあ、そうかもしれないけれど……。そういうこともあるんじゃないかしら?」
……そういうもんか?俺は首をひねったが、考えてもわからないので考えることを止めた。
「……そうだな……。とりあえず、探すか……」
「そうね」
俺とガーネットは再び歩き出した。しばらく歩いていると、大きな扉の前にたどり着いた。
「ここが怪しいわよね」
ガーネットはそう言うと、取っ手を掴んで引いた。しかし、開かなかったようだ。
「……鍵が掛かっているのかしら?」
「その可能性が高いな……。……ん?」
俺はガーネットに続いて取っ手を引くと、扉はあっさりと開いた。
「……開いたぞ?どういうことだ……?」
「あら、良かったじゃない!鍵を探す手間が省けたわ!」
ガーネットは嬉しそうに言うと、扉の中へと入っていく。
……まあ、いいか……。とにかく、今はダイヤモンドを見つけることが先決だ。俺はそう思い直すと、ガーネットの後を追った。
***
中に入ると、そこは広い部屋になっていた。壁際にはたくさんのガラスケースが置かれており、その中には様々な宝石が入っていた。
「すごい数だな……。これ全部ダイヤモンドなのか……」
俺はケースの一つに目を向け、中の宝石を眺めた。『ピンクダイヤモンド』『ブルーダイヤモンド』など、色とりどりのダイヤモンドが輝いている。
「そのようね……。でも、今日の目的は『願いが叶うダイヤモンド』よ!……どこにあるのかしら?」
ガーネットは辺りを見回している。
「そうだな……。……おっ!あれか?」
俺は部屋の奥に飾られているダイヤモンドを見つけた。それは、他のダイヤモンドとは違い、一つのケースに入れられている。
「間違いないわ!あれよ!」
ガーネットはそう言うと、ダイヤモンドの元へ駆け寄った。
「ちょっと待てよ……!鍵が掛かってるんじゃ……」
俺は慌てて追いかけると、ガーネットに尋ねた。しかし、彼女は既にダイヤモンドを手にしていた。
「鍵なら掛かっていなかったわよ?」
「は……?」
いやいや、そんなわけないだろう……。そんな簡単に開くような作りじゃないはずだ……。
「ほら!ダイヤモンドも手に入ったことだし、早く帰りましょう!」
「あ、おい!引っ張るなって!」
俺の言葉を無視してガーネットは歩き出した。仕方なく俺もそれについて行く。
鍵が開いていたなんて、まるでダイヤモンド自体が盗まれるのを望んでいたみたいだな……。まさか、そんなことはないか……。
「なあ……そういえば、そのダイヤモンドって何ていう種類なんだ?」
俺はふと気になって尋ねてみた。
すると、ガーネットは「『ホープダイヤモンド』って名前よ!」と元気良く答え、それをかざして見せる。ダイヤモンドは月の光に照らされて、青黒く輝きを放っていた。
「綺麗だな……。……っと、そろそろ帰らないとな」
もうすぐ日付が変わる頃だろう。あまり遅くなる訳にもいかない。
「それもそうね……。それじゃあ、行きましょ!」
「ああ……」
俺は短く返事をすると、ガーネットと共に屋敷へと帰って行った。
……この時の俺は、まだ知らなかったんだ。
この『願いが叶うダイヤモンド』が、どんな結末をもたらすことになるかを……。
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