第6話 怪盗コンビ、ここに誕生
何度か盗みを繰り返し、二人の連携もうまくいくようになってきた頃。ストノスは、パソコンを使って原石を調べていた。
(こうして調べてみると、結構載ってるんだな……。宝石商とか、コレクターとかまで……。)
パソコンの画面には、様々な情報が映っている。宝石や宝石にまつわる情報から、歴史の情報、さらには宝石に纏わる都市伝説など様々だ。
俺が夢中になっていると、突然部屋のドアが開く。
「ストノス!いるかしら?」
入って来たのはエピカだった。
「おいおい……。毎回言ってるが、ノックくらいしてくれ……。」
(心臓に悪いんだよ……。)
俺は内心そう思いながら言う。すると、彼女は不機嫌そうな顔で言った。
「別にいいじゃない。……それで?何してたのよ?」
「あぁ……。ちょっと調べ物をね……。」
俺は適当にはぐらかす。
「ふぅん……。どれどれ……?」
エピカは興味津々といった様子で言う。そして、俺の隣に座って画面を見る。
「ねぇ……。このサイトはどういうことかしら?」
「えっと……『宝石商』とか、『宝石に関する都市伝説』とかかな……。」
俺は答えながら、ページを閉じる。しかし、既に遅かったようだ。エピカは、ニマニマしながら俺を見る。
「へぇ~……。次のターゲットでも調べてたの?あなたから行動してくれるなんて、ずいぶん変わったわね……。」
「う……。いいだろ、別に……。どういう人が原石を持ってるか、気になっただけだ……。」
俺は少し照れくさくなりながら答える。すると、エピカは微笑んで言う。
「フフッ、あなたが乗り気なのは、良いと思うわよ?……それで、良さそうなターゲットは見つかったの?」
「盗みに入るのは、あまり褒められたことじゃないけどな……。……あぁ、ちょっとこの原石が気になって……。」
俺は、パソコンを再び開き、操作する。そして、とあるページを彼女に見せた。
「えっと……。『アレキサンドライトの原石が発見される。持ち主は謎の美女。』か……。」
「あぁ……。これなら、盗みやすいんじゃないかと思って……。」
俺は、アレキサンドライトについて説明をする。
「アレキサンドライトって、確か昼と夜で色が変わるやつよね?」
「そうだ。昼は緑色だが、夜に見ると赤色に変わるんだ。」
「それじゃあ、偽物を作るのは難しいんじゃないのかしら?」
「確かに難しいだろうな……。俺たちは夜中に盗むから、その時は赤色の偽物とすり替えればいい。だが、昼間に見られたら、それが偽物だって気づかれちまう。」
「それは困ったわね……。」
エピカは腕を組んで考える。
「それに、アレキサンドライトは産出量が少ないらしいしな……。」
「なるほどね……。盗みがバレたら、騒ぎになるのは待ったなしってことね……。」
「だから、なるべく人がいないときに狙おうと思っているんだ。」
「分かったわ。その方が都合が良いものね。」
エピカは再び考え込む。
「よし……。決めた!」
エピカは立ち上がり、指差す。
「私が囮になるわ!その間に、あなたが盗んでちょうだい!!」
「えっ!?ちょ、ちょっと待ってくれ!そんな危ないことさせるわけにはいかないだろ!?」
「大丈夫よ!私も慣れてきたんだから、うまくやるわ!それに……」
エピカはニヤリと笑って言った。
「私は、大怪盗になる女よ!必ず上手くやってみせるわ!……それより、作戦を考えましょう!まずは、夜の時間帯の確認からよ!あと、私の変装についても相談しましょ!準備しないと……。」
エピカは楽しげに部屋を出て行った。
(やれやれ……。エピカも強情だな……。)
***
しばらくして、エピカが呼びにきた。どうやら、彼女の部屋で作戦会議をするらしい。
「さて、時間帯なんだけど、夜の10時くらいはどうかしら?」
「そうだな……。その頃は、ほとんど誰もいないはずだ……。」
「決まりね!後は、どうやって盗むかだけど……。」
エピカは、俺の方に向き直った。
「私が囮になるのよね!どんな変装をすればいいかしら……?」
「……いや。あの後考えたんだが、俺が囮になるよ。」
「え……?どうして?」
首を傾げる彼女に、俺は考えたことを話し始めた。
まず、俺が警備員に変装して、本物の警備員と交代する。そして、その間にエピカが侵入して、原石を盗み出すという計画だ。
「ふぅん……。確かに、その方がいいかもしれないわね……。」
「だろ?……それで、問題は、どのタイミングで警備員に交代するかなんだが……。」
「それは、適当でいいんじゃないの?」
「適当って……。……まぁ、考えたところで、何か変わるもんでもないか……。」
俺はそう言って、椅子にもたれかかる。そして、時計を見た。
「そろそろ時間だし、行くとするかな……。」
俺は立ち上がる。すると、彼女は俺の腕を掴んで引き止めた。
「ちょっと待ちなさいよ。」
「ん?何だ?」
「何だ?じゃなくて……。……あなた、本当に警備員に化けられるの?」
「え……?あ、あぁ……。多分な……。」
「フフッ……。あなた、変装とか苦手そうよね……。」
「うぐっ……。ま、まぁ、確かに得意とは言えないが……。」
「やっぱりね……。でも、私のことを考えて、自分を犠牲にしてくれてるんでしょう?」
「……まぁな。」
「だったら、私は信じてるわ。……あなたは、きっと上手くやってくれるって……。」
「……ありがとうな。」
俺は素直に感謝した。すると、エピカは少し恥ずかしくなったのか、顔を背ける。
「べ、別にお礼なんて言わなくても……。さぁ!早く行きましょう!」
「あぁ。」
俺は警備員の姿に変装し、エピカとターゲットの屋敷に向かった。
***
屋敷に到着した俺たちは、早速作戦を実行に移した。
「よし……。じゃあ、行ってくる……。」
「気をつけてね!私は、ここに隠れているから……。」
「あぁ……。」
俺は、ゆっくりと扉を開ける。周りを警戒しながら、慎重に進んでいった。
そして、本物の警備員に声をかける。
「…お疲れ様です。そろそろ交代の時間なので、お願いします。」
「分かりました。では、よろしく頼みますね。」
「はい。任せてください。」
俺は、本物の警備員が出ていくのを確認して、エピカに合図を送る。
(さてと……。ここからが本番だな……。)
***
エピカは、ストノスから合図を受けて、屋敷に侵入していた。
(いよいよね……。)
エピカは、緊張しながら歩く。その時、突然後ろの方で物音が聞こえた。
(えっ!?……もしかして、バレちゃった!?)
エピカが振り返ると、そこには誰もいなかった。どうやら、風が吹いただけのようだ。
(良かった……。びっくりさせないでよ……。)
エピカはホッとして、再び歩き始めた。
だが、またもや足音のような物が聞こえる。しかも、今度は複数人の足音のようであった。
(嘘っ!?まだいるの!?……まずいわ!!早く逃げないと……!)
エピカは、走り出そうとしたが、恐怖で体が動かなかった。
(ど、どうしよう……。このままだと、捕まっちゃう……。せっかくここまで来たのに……。)
エピカが諦めかけた時、目の前に黒い影が現れた。その人物は、素早くエピカを抱きかかえる。
「きゃあっ!!」
「静かにしろ!……大丈夫か?」
「え……?あなたは……?」
エピカは、声の主の顔を見る。それは、警備員に扮した男─ストノスだった。
「待ってるつもりだったが、心配になってな……。」
「ストノス……!ごめんなさい……。」
「いや、いいんだ。……それより、原石はどこだ?」
「……こっちだったはず!」
二人は、目的の場所に急いだ。
そして、ようやく目的の部屋に着くと、鍵を壊して中に入る。
「フゥ……。やっと着いたわね……。」
「あぁ……。じゃあ、早速盗むぞ……。」
「分かったわ……。」
エピカは、本物の原石をポケットに入れ、偽物を元あった場所に置いた。
「……これで、任務完了ね!」
「そうだな……。……よし、じゃあ、後は逃げるだけだ。」
ストノスが言った瞬間、部屋のドアが開く。
「おい!お前たち!そこで何をしているんだ?……お前、警備員じゃないだろう!」
本物の警備員だと思われる人物が入ってきた。
「くそっ!!見つかったか……!バレちまったなら仕方ない……。」
ストノスは変装を解く。
「あら?意外とあっさり見つかってしまったわね……。」
「あぁ……。とにかく、逃げるぞ!」
「ええ!」
(確か、ここは2階だったはず……。それなら……!)
エピカは窓を開けて、ストノスに声をかける。
「ここから逃げるわよ!」
「えぇっ……!マ、マジかよ……。」
「この前も、そうしたじゃない。」
(どうしたのかしら?……でも、早くしないと!)
なかなか飛ぼうとしないストノスに、エピカは言う。
「ほら、早くしてちょうだい!」
「ちょっと、待って……。心の準備が……。」
「何を、やっているんだ……?」
なにやら揉めているエピカたちに、警備員たちは困惑しているようだ。
「もう!……えいっ!」
堪えきれなくなったエピカは、ストノスの背中を押した。
「うおっ!?……ぎゃあああっ!!!」
「よし!……フフッ、それではごきげんよう~♪」
エピカとストノスは、窓から飛び降りてしまう。
警備員たちも驚いていたが、すぐに追いかけようとした。だが、ここは2階のため、飛び降りるわけにはいかない。
「くっ……!逃がしたか……!」
***
窓から飛び降りたエピカたちは、あの後、パラグライダーで空を飛んでいた。
「ふぅ……。なんとか逃げられたわね……。……もう!なんで早く飛ばないのよ!」
エピカは、怒った様子で言う。
(だって、怖かったんだよ……。こればっかりは、慣れないんだ……。)
俺は、高い場所に登るのは平気だが、そこから飛び降りるのは苦手だった……。
「うぅ……。気持ち悪い……。」
「まったく……。情けないわね……。」
(いやいや!怖いものは、しょうがないだろ……。)
エピカは、呆れた表情でため息をつく。そして、ポケットから原石を取り出した。
「はぁ~……。とても綺麗……。ストノスも、見る?」
「……あぁ。見せてくれ。」
エピカは俺の手に、原石を握らせる。アレキサンドライトの原石は、赤く輝いていた。
(確かに、これは凄いな……。)
俺は、その美しさに思わず感嘆の声を上げた。
***
次の日。俺は、朝食のために部屋を出ようと、ドアを開けた。すると、エピカが勢いよく入ってくる。
「ストノス!おはよう!」
「うぉっ!?……エピカ、驚かすなよ……。」
「あら?ごめんなさい。……それより、凄いのよ!これを見て!!」
エピカは興奮したように、記事を指さした。
「なになに……?『謎の怪盗コンビ現る』?」
「ここよ、ここ!」
新聞には、こう書いてあった。
『昨夜、とある屋敷に忍び込んだ2人組がいたらしい。その2人は、屋敷内にあったアレキサンドライトの原石を盗んでいったそうだ。警察は、その2人をそれぞれ"怪盗ガーネット"、"怪盗スクリーム"と呼んで捜査を続ける。』
「この"怪盗ガーネット"って、絶対私のことよ!なかなか良いセンスしてると思わない!?」
エピカは満足そうに言う。
(いや、確かにエピカの瞳はガーネットみたいな色だったけど……。)
「"怪盗スクリーム"って、もしかして……。」
「えぇ!あなたの事よ!」
「マジですか……。」
(おいおい……。そこは怪盗エメラルドとかにしろよ……。)
俺がガックリしていると、エピカは笑いを堪えながら言った。
「フフフッ……。まぁ、叫んでたし、仕方ないわね……。フフフッ……。」
「なっ、笑ったなー!!」
「笑ってないわよ。……プクク……。」
「今、思いっきり、声に出てるぞ!」
「えぇ~?」
「とぼけるんじゃねぇ!」
「はいはい。分かったから、早くご飯を食べましょう!」
そう言って、エピカは逃げるように部屋を出ていく。
「……お前、覚えてろよー!!」
……こうして、『怪盗ガーネット』と『怪盗スクリーム』はここに誕生したのだった。
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