第玖話 【瑕疵物件】
「転職しようと思って……」
色々な職場を渡り歩いた介護士の
【瑕疵物件】
そこは一軒家をほぼそのまま小規模介護施設として使用している職場だったそうだ。
昼間はデイサービスとして、最大十人の人が利用していて、職員は三人。
利用者は1階のみ使用し、2階は職員の休憩室や事務所として利用していた。
元は一軒家なので、1階はリビングと和室、そしてキッチンとお風呂場とトイレ。
2階は3部屋で、1部屋だけ大きなクローゼットが付いた部屋があった。
1番広い部屋は事務所で、クローゼットのある部屋は女子部屋、もう1室は男子部屋として使われていた。
男子部屋にも2畳くらいの押入れがついていたそうだ。
慣れるまでは日勤帯のデイサービスのみで、慣れたら夜勤もするようになり、正社員として働く事になるはずだった。
夜間は、利用者は最大四人で常に居るのは二人。
それなのに夜勤者は二人。
驚く程に手厚い介護らしい。
「嫌なの!怒られるのよ!」
朝、従兄が出勤すると、その家に住んでいる利用者の一人がトイレを使うのを拒否していた。
車椅子のその利用者は、認知症ではあるが比較的温和で、支えれば立てるので手間が掛からず職員には人気の利用者だった。
「あの、手伝いましょうか?」
夜勤者二人がかりでもトイレ誘導できずに苦戦していた為、従兄が声を掛けると、夜勤者の一人が「大丈夫」と断ってきた。
そもそも一般家庭のトイレと大して変わらないので、職員は一人しかトイレ内には入れない。
それでも一応傍に控えていた従兄は、その利用者がトイレ自体を拒否しているのではなく、トイレに行くのを拒否しているのに気が付いた。
そしてトイレ前で車椅子から立たせトイレ内へ入ると、普通になって大人しく介助されていたらしい。
意味がわからない。
他の施設で、トイレを拒否するとか、入浴を拒否する利用者は勿論居た。しかし、何か様子が違うのだという。
とりあえず落ち着いたようなので、従兄は2階で着替えて1階に降りた。
1階のリビングでは、もう一人の利用者が居た。
彼女は生まれつき障害があり、年々可動域が狭まり、とうとう数年前に車椅子になったのだという利用者で、頭はクリアな方だった。
「彼女ね、たまに
いきなり話し掛けられ、何の事が従兄には解らない。
「私は視えないから気にしないんだけどね。前に霊感があるってパートの人は、1ヶ月もたなかったんだよねぇ」
そう言って教えてくれて話は、まるで小説のようだったそうだ。
その家の元々の持ち主は小説家であり、突然訪問してきたファンに刺されて死んだそうだ。
いわゆるメッタ刺しで、玄関は血まみれだった……と、まるで見てきたようにその利用者の女性は語ったとか。
刺された小説家は男性で、妻も有名人だったそうだ。
あの広いクローゼットは妻の為か、と妙に納得したらしい。
事務所に使っている広い部屋は、執筆部屋だったのかもしれない。
事務机を4個並べても余裕がある程広い部屋。
少し変わった間取りだったのは、そういう事かと、ここでも納得したらしい。
そして問題のトイレだが、玄関を入ってすぐ脇、階段下のスペースを利用して作られていた。
そう。その血まみれになった場所は、トイレの前なのだ。
「玄関の床の隙間、よく見ると赤黒いから見てみなよ!」
利用者の女性はカラカラと笑っていたそうだ。
それからすぐに始業時間になり、その話は終わった。
他の日勤帯の職員も出勤してきて、夜勤者と引き継ぎをする。
「今日はトイレ前を嫌がります」
夜勤者はそう報告をしていた。
昼休憩で『瑕疵物件 〇〇区』と検索すると、瑕疵物件地図が出てきた。
そして、
有名人の事件だったからか、その刺殺事件も簡単に調べられた。
利用者のあの女性の言ったとおりの事件だった。
朝や夕方に、例の利用者はトイレ拒否をする。毎回では無いが、定期的に「怖い」と言う。
睨んでいる、怒っている、と。
「もうすぐしたら、夜勤が始まるんだ」
従兄は、本気で転職を考えているようだ。
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