夢色八景
あべくん
1
目を瞑ったまま意識が起きる。
背中から伝わるひんやりとした感触、体を撫でる風も清々しい。
耳を澄ませば、水が凪いでいる。
ここはどこだろう。
私は、ゆっくりと両目を開けた。
飛び込んで来たのは、夜空。
なるほどと、頷く。こんな夜ならば、少し冷たいぐらいで丁度良い。
体を起こして立ち上がる時、足元で何かが動いたので気になって頭をおろした。
足元から広がる、波紋。
おかしい。
私は今、どこに立っているのだろう。
確かに、石の上に立つような安心感があるのに、私の足元で広がる波紋と、風に揺れる波が、足元は水だと物語っている。
恐る恐る、地面を蹴ってみる。
大きめの波紋が広がった。
おどけるように、つま先で突っつくと、小さな波紋が広がる。
夜空の下で、私はしばらく広がる波紋で遊んだ。
歩くと、こつんこつんと音がするのに、波紋が広がる。
風が吹くと波がゆったりと流れていくのに、足元は石のように硬い。
星一つない夜空、月すらない。なのにここは、少し明るい。
何で、星も月も無いのに、前が見えるのだろう。本当なら、一寸先は闇のはず。
気づくと、少し遠い所に誰かがいる。
あれは誰だろう。
私の胸が、何故か小躍りを始めた。
ああ、私は今、期待しているのだ。
あれが、いつか恋したあの人なら良いなと。
見えるのは後ろ姿。
小さな波紋を作りながら、近寄ってみる。
段々、後ろ姿がハッキリと見えて来て、恐らく、あの人だろうなと思える。
何を話せばいいのだろう。あの人が笑った顔を、また見れるのだろうか。
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