夢色八景

あべくん

 目を瞑ったまま意識が起きる。

 背中から伝わるひんやりとした感触、体を撫でる風も清々しい。

 耳を澄ませば、水が凪いでいる。

 ここはどこだろう。

 私は、ゆっくりと両目を開けた。


 飛び込んで来たのは、夜空。

 なるほどと、頷く。こんな夜ならば、少し冷たいぐらいで丁度良い。

 体を起こして立ち上がる時、足元で何かが動いたので気になって頭をおろした。

 足元から広がる、波紋。


 おかしい。

 私は今、どこに立っているのだろう。

 確かに、石の上に立つような安心感があるのに、私の足元で広がる波紋と、風に揺れる波が、足元は水だと物語っている。

 恐る恐る、地面を蹴ってみる。

 大きめの波紋が広がった。

 おどけるように、つま先で突っつくと、小さな波紋が広がる。

 夜空の下で、私はしばらく広がる波紋で遊んだ。

 歩くと、こつんこつんと音がするのに、波紋が広がる。


 風が吹くと波がゆったりと流れていくのに、足元は石のように硬い。

 星一つない夜空、月すらない。なのにここは、少し明るい。

 何で、星も月も無いのに、前が見えるのだろう。本当なら、一寸先は闇のはず。

 気づくと、少し遠い所に誰かがいる。

 あれは誰だろう。


 私の胸が、何故か小躍りを始めた。

 ああ、私は今、期待しているのだ。

 あれが、いつか恋したあの人なら良いなと。

 見えるのは後ろ姿。

 小さな波紋を作りながら、近寄ってみる。

 段々、後ろ姿がハッキリと見えて来て、恐らく、あの人だろうなと思える。

 何を話せばいいのだろう。あの人が笑った顔を、また見れるのだろうか。

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