第3話 強大な気配

「トレント!?」

なけなしのゲームの知識から思い浮かんだ単語を口にしてみる。


「それだけじゃないわ、後ろからこの森の主のキングボアが!」

よくわからないがやばいものが追いかけてきてることはわかった。

後ろから迫る得体の知れない殺気が俺にアクセルをさらに捻りさせる。未舗装の道をスポーツバイクでこの速度。モトクロスレーサーも顔負けなんじゃないだろうか。

そんなことよりも先ほどからチラチラとミラーに映るトレントの後ろの強大な気配がさらにスピードを上げさせる。


「どうしたらいい?」

いつまでも知らない道をこの調子で走っていれば、体力も燃料も切れる。

どこか避難できる場所があるならそこを目指さなければならない。

言わずもがな日本ではないことは頭ではわかっている。ただ、ここに来て警察や消防、自衛隊に縋りたくなる。


「とにかく逃げて!!あともう少しで森を抜けられるはずだから」

結局戻ってきた道をまた戻って先程の引き返したあたりまで来ている。

さっきもこの辺りまできたような気がするが、本当に森を抜けれるのだろうか?


森を抜けたら何があるのだろうか?


この終わりの見えない追いかけっこに神経は擦り切れる寸前だった。


かなりのスピードを出しているおかげかさっきよりも圧倒的に短時間でここまできた。

ミラーを見ると未だにわしゃわしゃと動くトレンドが見える。


「開けた」

木に囲まれていた道に光が見えてくる。


「様子がおかしいわ!まだ止めないで飛ばし続けて」

えぇ、、、そろそろ疲れてきたのだが、、、


「どこまで、、、」

森の中ではスピードに限界があって撒けなかったが、そろそろスピードも出せる。


「ずっと真っ直ぐよ、すると街があるわ。草原は冒険者も多いし、こんな大きな魔物は森から出てこないはずなんだけど、、、街に行けば騎士団もいるし安心よ」

この先に街があるんだな。


今更ではあるがここは日本、地球ではないようだ。夢かとも思ったが、バイクの振動からくる痺れや、首の痛さがその可能性を否定してくる。言葉は通じるようだ。


「撒くぞ、捕まっておけ」

タンクに顎がつくのではないかというくらい低い姿勢をとり速度を上げる。


「ひゃーほい」

後ろで変な声を上げるこの女性はなんなんだろう。


ミラーを見ると、トレントは明後日の方向に走っていき、強大な気配の持ち主は見当たらなくなっていた。

しばらく高速道路さながらの速度で、北海道のようなまっすぐな道を走った。


森が見えなくなるぐらいまで離れたとき、緊張の糸が途切れた。

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