街の人々




あんまり眠っていないのに 朝早く目覚めたものだから

朝風呂に入って

それでも20分くらい うとうとしたか

脱衣所でストーブを点け忘れたことを後悔する前に身支度して

二階に上がって 何気にテレビを点けたら

画面はギリシャのクレタ島を映していた



出稼ぎなのか出張なのか 船で帰ってくる夫を待つ妻が港に居た


1か月後に兵役を迎えるという若者が父の漁の手伝いをしていた


城壁の謂れを尋ねられて答える若い女が居た


山から取ってきたかたつむりを路上で売る老人が椅子に座っていた


カフェで昼間から酒を呑みながら仲間と集う男たちが居た


結婚したばかりのカップルが式服のまま防波堤で語り合っていた


クレタ島の伝統楽器を小さな店で弾いて客に聴かせる男たちが居た



でも


誰も スマホなんていじっていなかった


誰も パソコンをテーブルの上に出してなかった


誰も イヤホンなんてしていなかった



彼らは

すれちがう人や風景を眺めながら街を歩き

人の顔を見ながら話をしていた





行きやしないだろうけど

僕はクレタ島に行ったら 彼らと同じように過ごすのだろうか


来やしないだろうけど

クレタ島の人たちが日本に来たら 日本風に過ごすのだろうか



クレタ島いいな って思ってりゃいいものの

なんで こんなことを思ったんだろうね


大晦日だっていうのに





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る