その笑顔に誓うぜ

「布団が吹っ飛んだぜ……」


 朝からいきなりしょうもないギャグを俺はかましていた。

 今居るのは由香と舞が使っている部屋の寝室で、俺は彼女たちに抱き着かれながら朝の目覚めを迎えた。


「……すぅ……すぅ」

「……うぅ……たいや……き」


 昨日の夜は……それはもうとにかく凄かった気がする。

 以前のように彼女たちと体を重ねたのは同じだけど、俺が彼女たちへの気持ちを自覚したからこそ遠慮はそこまでなかった。

 彼女たちと抱き合う中でも頭の中でこれで良いのかと、百合は良いのかと囁いてくる存在が居たが俺は気にはしなかった……その結果、もっと強く彼女たちと心の深い部分で繋がれた気がする。


「……もう後戻り出来ねえなぁ」


 これからどうなるのか分からないまでも、既に俺は彼女たちへの想いを伝え、それを彼女たちは受け入れてくれたわけだ。

 ここまで来て……それこそこれから先、やっぱりアレは無しにしてくれなんて言えないだろうし、そもそも彼女たちから離れることすらダメなんだろう。


(まだ迷いはある……でも、今の関係に満足している自分も居る)


 おそらくだが今の俺はただ有頂天になっているだけかもしれない。

 彼女たちの間で見られる百合をジッと見れる関係性になっただけでなく、そんな彼女たちに愛されるという幸せな立ち位置を手に入れることが出来た……それは間違いなく喜べることだ。


(難しいことは二人と一緒に考えて行けば良いか。俺はただ、彼女たちの望む俺であれば良い)


 それは決して一方的なモノではなく、俺自身もそうしたいと願っていることだ。

 だからこそそれで良いんだと俺は納得し、改めて気持ちの良い朝の目覚めをもう少し堪能することにするのだった。


「……さてさてぐへへ」


 完全にエロ親父のそれだが、俺はまず由香に目を向けた。

 二人とも目を覚まさないのでどっちに何をしても大丈夫なわけだが、自然と先に目が向いたのは彼女だ。


「……………」


 俺は何も言葉を発さずに彼女に顔を近づけた。

 端正な顔立ちで見る者すべてを魅了する寝顔……良い香りもしており、これだけで幸せな気分に浸れる。

 その次に舞にも視線を向けた。

 由香と違うタイプのこれまた端正な顔立ち、プルプルと唇がキスを求めているかのようにも見え……俺はそっと彼女にキスをした。


「……えへへ♪」

「うん?」


 っと、そこで舞が笑った。

 頬を赤くしたのでまさかと思った束の間、何かが俺の脇腹を抓って痛みが走ったのでそれは何かと手を当てると……それは由香の手だった。


「……由香?」

「……むぅ!」


 ……どうやら、最初から彼女たちは起きていたらしい。

 おそらくだがどうして先に由香の方に顔を向けたのに何もせず、その後に顔を向けた舞に対してキスをしたのだと……たぶんそれでご立腹なんだろうと予想出来た。


「……はい」

「♪♪」


 由香にもキスをすると彼女は満足そうに笑顔を浮かべ、そのまま身を寄せるようにして更に強く抱き着いてきた。

 先ほどよりも強く、深く触れたいと言わんばかりの彼女たちに俺は朝から煩悩との戦いだ……ため息を吐きたくなるものの、このため息すらも贅沢だろうと世の男たちから言われそうで、それもそうだなと俺は受け止めることにした。


「よっこらせっと」


 俺は体を起こした。

 両サイドにはまだ横になったまま俺を見つめる二人の姿があり、この上から見下ろす角度もそうだけど、彼女たちの究極系とも言える本当の素の姿に俺はもう自分で言うのもなんだが……メロメロになりそうだ。


「昨日の言葉、嘘じゃないから。どんな風に未来を歩くか、どんな風にしていけば良いのか分からないけど……俺は二人のことを大好きだって気持ちに従うよ」

「……咲夜君♪」

「嬉しい……嬉しいよ凄く♪」


 これから人生は長いんだ……だからこそ、迷いながらも前に進んでいく。

 俺を大好きだと言ってくれた彼女たちに応えられるように、それこそ俺も彼女たちに抱いた気持ちに嘘を吐かないように、この気持ちを大切にしながら。

 それから俺たちはベッドから出た後、各々で身嗜みを整える時間だ。

 二人から一緒に朝のシャワーでもどうかと誘われたのだが、今のこの気持ちの中で一緒に浴室に入ると何が始まるのかは予想できたため、二人には心底残念がられたが俺は断った。


「……ふぅ」


 よくネットやSNSでエッチなモノを見た時の反応を表すコメントで『……ふぅ』というものがあるのだが……いやぁ正に今の俺の気持ちはこれだった。

 思春期真っ盛りということもあってかエッチな方向に舵を切り過ぎた思考回路になるのも仕方ないとはいえ、あまりにも二人は魅力的過ぎる。


「……それだけじゃないもんな」


 肉体同士の繋がりだけでなく、会話や思い遣りという形にない部分でも彼女たちは俺に幸せを与えてくれた。

 俺だってそれに応えたいと思って色々と伝えたけど……まだまだ、彼女たちの熟年夫婦のようなやり取りには程遠い。


「マジで将来、どんな風に説明するかなぁ」


 もちろん、俺たちがずっと一緒だという保証はどこにもない。

 何かがきっかけで仲が拗れてしまう可能性もあるだろうし、俺たちは絶対にいつまでも一緒だと絶対的に信じるのは間違っていると思う……けど、二人のことを想うとこれを絶対に実現させたいんだと思えるから不思議だ。


「それだけ俺にとってもう存在は大きいってことだよな」


 そう、それがもはや答えだろう。

 俺は彼女たちと一緒に居たい、それが嘘偽りのない真っ直ぐで、正直な俺の願いでもあり、そして彼女たちが願ってくれているモノでもある。

 ……なんだ、答えは簡単だったな。

 俺はただ、自分のしたいと思うことをする……そして、由香と舞のことを大切にすれば良いだけのことだ。


「ただいま」

「たっだいま~!」


 シャワーから戻ってきた二人はすぐに俺に飛びついてきた。

 とにかく俺に触っていたいと思わせるような姿は犬や猫のように見え、俺は自然と二人の頭を撫でるように手を伸ばす。

 こうすると彼女たちはまるで年下の小さな子供のように嬉しそうにして……そんな姿もやっぱり可愛かった。


「あたしたちの扱いに慣れてきた?」

「ふふっ、私たちも驚いてるわ。こんな風にされるのが好きなんだなって」

「何をしても可愛すぎだろ。どれだけ夢中にさせるんだ」


 そう告げると彼女たちは表情を変えた。


「もっと夢中になるわよ?」

「もっと逃げられなくなるよ?」


 それは正に悪魔の囁き、そして同時に甘い言葉でもあった。

 挑戦的でありながら、それでも求めてくれる彼女たちに俺は苦笑し、その笑顔を必ず守るのだと誓うのだった。


【あとがき】


次回で終わりかなたぶん。

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