おしまい

 由香と舞の二人と一緒に過ごすことを誓ってから数ヶ月が経過した。

 その間というと特に俺たちの間に変化はなく……いいや、かなりの変化というか更に二人から向けられる想いが強くなった。

 百合の戦士としてずっと生きてきた俺にとって、二人の間に挟まる……否、強制的とも言えるくらいに挟んでくる彼女たちとの日々は……ま、幸せとしか言いようがなかった。


『最近のお前マジで楽しそうだぞ』

『本当にね。これもあの二人の影響かしら?』


 今まで以上に表情にも雰囲気にも出ているらしく、学校では頼仁や委員長にもそんなことを言われ、家では父さんや母さんもそうだし珊瑚にも同じことを言われる。

 それだけ俺が幸せなんだとみんなに思われていることの証だとは思うが、それでも二人と付き合う中で色々と考えることは増えた。


「……あっつ」


 さて、そんな風に俺と彼女たちの中で変わった変化……それを知るのは俺たちだけという状況において、夏休みに入ってから二人の猛攻は更に激しさを増した。

 何というか……俺は彼女たちに想いを伝え、その上で二人と新しい関係になったわけだけど、この気持ちが絶対に変わらないようにと、それこそ彼女たちから逃げられないようにされているような感覚なのだ。


「ま、それを望んでるんだもんな俺は」


 もう百合がどうとかそんなことはどうでも良くはないのだが、とにかく俺は由香と舞の二人に完膚なきまでに惚れてしまった。

 だからこそ、現状に対して迷いながらもしっかりと前を見ることにしたわけだ。


『表情が凛々しくなったな。なんだ? 好きな子でも出来たのか?』


 父さんにこう言われる度に頷きそうになる……実は俺、彼女が二人で来たんだよと口にしそうになるが何とか堪えてだ。

 きっと彼女が二人なんて言ったら父さんも母さんもそうだし、珊瑚はとてつもなくビックリすると思う……いや、ビックリどころかそれで済んでくれると助かるが。


「……そろそろかな」


 夏休みに入ってからほとんどの日々を俺は彼女たちと過ごしている。

 そして今日はついに、二人は俺の家に来ることになっている――もちろん付き合っているからこその挨拶としてではなく、あくまで遊びに来るという体だ。

 家族を含め妹にも友達が遊びに来ると伝えているが……なるようになるか!


「兄さんどこ行くの~?」

「友達が近くまで来てるから迎えに」

「あぁそうだったね。いってら~」


 珊瑚に見送られて家を出たのだが……ちょっと歩いた先に既に二人は居た。

 夏ということで二人とも肩を出すラフなスタイル、舞に至ってはその派手な姿にマッチするかのように僅かだが胸の谷間も見えている。


(この二人を見てると感覚が狂うよな)


 あまりに美少女過ぎて、あまりにもスタイルが良すぎて……何となく、もしも彼女たちから離れてしまったら他の女性とそういう関係になれないのではないかと常々思わせられる。


「咲夜君♪」

「やっほ~♪」

「おはよう二人とも」


 朝とはいえ夏の暑さは健在だ。

 故に流石に抱き着いてくることはこの時期減ったものの、ボディタッチが比較的多い舞はお構いなしだった。


「ど~ん!」

「おっと」


 可愛らしく声を上げながら舞が飛びついてきた。

 そのまま彼女は俺の首元に顔を埋め、クンクンと匂いを嗅ぎながらペロペロと舌を這わせてくるので少しくすぐったい。

 最近知ったことだけど彼女は俺の匂いが好きらしく、周りに誰も居なかったらこうして匂いを嗅いでくることが多い……不思議なことに鬱陶しいとか思うことはなく、それも彼女の愛らしさと思うようになった。


「こら舞、道端でそういうことをしないの」

「えぇ良いじゃんか。だって周りに誰も居ないんだし?」

「……それはそうだけど、あなたみたいに私だって咲夜君とイチャイチャしたいんだから察しなさい」

「は~い」


 引っ付く舞が可愛いのもそうだけど、こんな風に注意をしながらも嫉妬心をチラつかせる由香も本当に可愛くて、俺は彼女たちと親しくなればなるほどその魅力に捕まってしまう。


「それじゃあ行こうぜ。流石に暑いしさ」

「えぇ」

「うん」


 それから二人を連れて家に戻った。

 父と母は買い物に出かけて居なかったが、玄関から響いた彼女たちの声に何事かと珊瑚が現れた。


「……え?」


 俺が風邪になった時に珊瑚は由香と舞を見たが、こうしてじっくりと顔を合わせるのは初めてだ。


「お邪魔します」

「お邪魔するね妹ちゃん♪」


 二人の綺麗な微笑みで珊瑚は見惚れていたが、すぐに俺の首根っこを引っ掴んで奥に連れて行った。


「ちょっと兄さん!? あの二人以前の!? というかなんで!?」

「だから言っただろ。友達が二人来るって」

「……予想外過ぎるでしょ」


 まあ俺も同じ立場ならそうなると思うわ。

 その後、簡単に自己紹介をしてもらってから二人を部屋に招いた。


「涼しい♪」

「ベッドに飛び込んでも良い?」

「うん? あぁ」


 頷くと舞はぴょんと俺のベッドにダイブした。

 彼女は毛布に包まって息を吸い込み、悩まし気な声を漏らしながらビクビクと体を震わせている。


「ごめんね? 今に始まったことじゃないけれど」

「良いさ別に。さてと、さっきは舞に抱き着かれたから今は……」


 由香に手を伸ばして抱き寄せた。

 彼女はクスッと笑って俺の背中に腕を回し、そのまま顔を上げてキスを要求してきたので、俺はそれに応えるように唇にキスをした。


「……幸せよ本当に」

「俺もだよ」


 抱き合ってキスをする俺と由香、そしてベッドで悶えている舞と何とも言えないカオスな空間……うん、本当になんだこれ。


「それにしても改めて妹さんを見たけど可愛いわね凄く。咲夜君が可愛がる気持ちは良く分かったわ」

「だろ?」

「えぇ。とても可愛くて……うふふ♪」

「……おい、まさか?」

「そういうのじゃないわ。安心してちょうだいな」


 由香の意味深な笑みに俺はまさかと思ったが、どうもその心配はなさそうだ。

 おそらくは俺を揶揄う意味での笑みだったんだろうけど、彼女は一応百合属性を秘めているので想像してしまってもおかしくはないことである。


「女性として愛しているのは舞だけ、それに……そんな私たちの想いを全て包み込んで満たしてくれる男性が傍に居るわ。そんな時に他に割く気持ちなんて持ち合わせていないもの――あなたと舞が居てくれればそれで良いの」

「……ったく、そこまで言われると恥ずかしいけどな」

「これから一生聞くのよ? こんなことで恥ずかしがってたら身が持たないわ」


 なんてやり取りをしていたら毛布に包まる舞がジッとこちらを見ていた。


「あたしを放ってイチャイチャすんなし」

「あなたが自分の性癖に正直になりすぎてるからでしょうが」

「……それはそうだけどさぁ」


 ぶぅぶぅと唇を尖らせる舞の頭を撫でると嬉しそうに寄り添ってくる。

 それから俺は冷房の効いた部屋だというのに、暑くなって仕方ないんじゃないかと言われるほどに二人とずっと引っ付いていた。


「なあ二人とも」

「なに?」

「どうしたの?」


 両サイドに居る二人に伝えるように俺は言葉を続けた。


「この先さぁ、大変なことは多いと思うんだ。それこそ壁にぶち当たることもかなりあると思う――それでも俺は誓うよ、二人とずっと一緒に居るから」

「……うん」

「えへへ♪」


 悩んだり困ったりすることは多いだろう、それでも俺は彼女たちに誓う。

 元々百合が好きで好きで仕方なかっただけの人間なのに、気付けば彼女たちに好かれて百合の中に挟まれてしまった……それは今でも夢のような幸せでありながらも、少し困惑してしまうことも多々ある。


(……どうしてこうなったんだって考えることは多い。でも……その悩みに勝る幸せを俺は今噛み締めている。二人とこれからもずっと一緒……ずっと一緒だ)


 しっかし……もしかしたら漫画とか小説で売り出せるネタかもしれないな。

 百合が好きだったのにいつの間にか百合に挟まれていた男……みたいな感じでさ。


「よし、うおおおおおおおおっ!!」

「え!?」

「きゃっ!?」


 俺は二人を強く抱きしめ、そのまま寝転がった。

 驚いた様子の二人は少し困ったように苦笑したものの、匂いを嗅いだり肌を擦り付けてきたりととにかく愛情表現をしてくれる。

 俺は絶対にこの温もりを手放さない……それが俺の目標であり、守るべき大切な存在だ!


「……ちなみに、どっちが正妻か決めてるの?」

「あ、それ気になるぅ!」

「……え?」

「ねえどっち?」

「どっちなの?」

「……………」


 ……やっぱり、色々と悩むことの方が多いかもしれんね。

 これから先本当に幸せでいっぱいだろうけど大変なことも多そうだぜ。




【あとがき】


ということで完結です。

ちょっと唐突でしたけど、エタるよりは自分で終着点を決めて終わらせようと考えた次第です。


ただまあ百合に挟もうとしてくる二人に愛される、そんなシチュエーションを書けたのは楽しかったし欲望は満たされたので良しとします!


それではみなさま、今までありがとうございました!

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百合の間に挟まる男を許さない男がいつの間にか挟まれていた件 みょん @tsukasa1992

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