第1話 迷惑をかけない

 あなたは「死にたい」と思ったことはあるだろうか。

 私はある。厳密に言うと、物心ついた頃から「死んでみたい」と思っていた。

 そこで私が小学生のある日に、母に「死にたい」と言ってみた。すると母は「いいよ、ただし人様に迷惑にならない方法で死にな」と言った。

 その日から私の『人様に迷惑をかけない』自殺方法の探求は始まった。


 まずは既存の自殺法からだ。

首吊り…死体の処理、掃除、糞尿

飛び降り…掃除、誰かにぶつかるかも

飛び込み…電車が遅れる、掃除

OD…死体の処理、処方薬はその都度飲みきろう

リストカット…死体の処理、その後のお風呂に入る人は嫌だろうね

富士の樹海…捜索されたら税金がかかり実質日本国民全員の迷惑に


 日常的に実行できそうなところでいくと、こんなもんだろうか。

 どうしても死体の処理が問題になる。自殺するまではいくらでも自分で苦労できるが、自分がいなくなった後はどうしても他人に任せっきりになってしまう。

 そもそも人と人とが関わり合って成立する人間社会において、他者の介入なしに何かしら行動すること自体が難しい。

 私は母を恨んだ。なんて面倒な条件をつけてくれたのか、と。

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