「死にたい」の3分類

ばじる

第1話

Ⅰ. 初めに

前提として、「死にたい」と思うことは生物としては異常である。その「異常」に対処するために専門知識を持った人、いわゆる専門家がいるのである。しかし、専門家の数にも、それぞれの対応できる患者数にも限りはある。『「死にたい」ほど辛い状態の人を分類してどうするのか』という疑問を持つ者もいるかもしれない。その疑問に対する答えとしては、分類することによってそれぞれの病態へのより適切な対応が取れるようになり、それによって様々なムダの削減につながると思うためである。


Ⅱ. 3分類

「死にたい」という人には3パターンある。と、私は思う。それは、ある種の欲求として生まれつき「死にたい」と思ってしまう『先天性』の「死にたい」人、何らかの経験により心理的障害が生じた結果として『後天性』に「死にたい」という考えに至ってしまっている人、自分の辛さを表現する方法として「死にたい」と言ってしまう『偽陽性』の「死にたい」人、の3つである。


Ⅲ. 各論

先天性の「死にたい」人は、「死にたい」と考えずにはいられない。こういう人たちに『「死にたい」なんて考えるな』と指導するのは無意味だとわかるだろう。個性の否定では救われない。個性は育むべきものだからだ。しかし、「死にたい」という個性は育むと死んでしまう。だからこそ、先天性の「死にたい」人は適度に「死にたい」欲を満たし、周囲の人はそれに寄り添う必要があろう。続く問題は「死にたい」欲の発散方法だが、それについては次回の『高菜明太子マヨ豚丼自殺』にて。


後天性の「死にたい」人は、その生物的に異常な思考が特定可能な原因によって引き起こされている。その「原因」を特定し、取り除くこと(一般にカウンセリングと呼ばれること)へは専門知識が必要であり、その行使こそが専門家の仕事である。



次に偽陽性の人についてだが、偽陽性の「死にたい」人について述べる前に、彼らに対して私の意見が批判的なものになってしまうことを先に断らせてもらう。いつか書くと思うが、意見とはその人の経験や立場の影響をどうしても受ける。私もなるだけ中立的な意見を書くことを目標としているが、未だ完全な中立意見を述べられるレベルではない。以上に留意して以下の「意見」に目を通していただければ幸いである。


さて、偽陽性の「死にたい」人は、テレビやインターネットで自殺というものを自己表現だと勘違いしてしまった人である。ようは本当に死ぬ気はない。今風の言い方で言えば「ファッション希死念慮」であろうか。ヒトは楽をしたがる生物だ。そのお陰で文明は発達してきた。その点で言うと、「死にたい」という言葉は非常に楽な自己PRである。とりあえず「死にたい」と言っておけば、周囲の優しい人は何かしら動いてくれる。ここで問題になるのは、自分の本心だと思って、思ってもいない「死にたい」を言ってしまう人がいることである。かてて加えて、精神病は診断が難しい(注1*)ということも問題である。それでも、最近は脳科学分野の研究が進み、精神病をホルモンバランスの異常と脳障害の側面から定量的に分類しているらしいため(読者諸君には、専門分野でないため、不確定な表現になることをお許しいただきたい)、そちらからのアプローチで「死にたい」の偽陽性率は下げられるのではないだろうか。


(注1*詳しくはローゼンハンの社会実験について調べてほしいが、要は精神病は精神科医がおかしいと思えば病気になり、そこに科学的根拠はない、ということを証明した実験である(注1.1 1970年代の実験のため、現在の精神科医がそうであるという訳ではない。 注1.2 では現代の精神科診療が科学的根拠を有しているか、というと……。本当は脳科学検査を一般化できればいいのだけど。)。)


また、言葉は不思議なもので、ずっと言い続けたり聞き続けるとその気になってくる。ずっと「死にたい」と言ったり聞いたりしていると、死ぬことが行動の選択肢に入ってきてしまう。こうなると、ストレスなどの逃避要因に直面したときに自殺という手段を選んでしまう可能性が高い。

飛び込み自殺の多くはこの刷り込み型自殺であると私は思っている。テレビやニュースでの自殺報道が(本当は)法律で禁止されているのはこれが理由なのかもしれない。


Ⅳ. 最後に

偽陽性の「死にたい」人に対して専門家の時間を割くと、本当に治療が必要な人(特に後天的「死にたい」人)への治療が遅れ、文字通り手遅れになってしまう。また、先天性の「死にたい」人に延々とカウンセリングをするのもまた、専門家の無駄遣いである。だからこそ、「死にたい」を分類することは重要である、と私は思うのだ。

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