第2章最終回「オモイビト」
夏休みも中間に差し掛かった。先日葵から告白された善の答え。
それは…。
早朝から善は公園のベンチで空を仰いで微動だにしない。あの告白から数日経ち、毎日があっという間に過ぎているような気がした。そこへやってきたのは…。
「先輩っ!待ちました?」
翔子だった。部活前で、ジャージを着たまま。
「今日呼んでくれたってことは、私を選んでくたってことですよね!?めっちゃ幸せです!私、幸せにしますね!」
「翔子ちゃん…おでこの怪我はもういいのか?」
「怪我よりもまずはキ…キスを」
「調子に乗らないで」
そこに葵が現れ、翔子の首根っこを掴んで引き離した。普段表情が少ない葵だが、今日は何やら晴々としている。
「だって、答えもらってないんですよね?実質私の勝ちじゃないですか」
「確かに答えはもらってないわ。」
あの海での告白の日。
「異性として。私は諸星善が好き、あなたは私の物、愛している。」
「あ、い!?愛!?」
「答えは?」
「俺…。俺は…。時間をくれ。」
葵は驚いた。素直に自分は嫌われていないと思っていたし、これまでの付き合いから善は即答してくれると考えていた。そのため、考えなかった答えが頭に響いた。
「ダメ…なの?」
涙が溢れ、止まらなくなった。
「ダメじゃない!あの、俺のケジメとしての時間がほしいんだ!」
と言ってそれから数日経ったのが今である。
「だったらハッキリとここで決めましょう。NOなら私は翔子ちゃんを殺すわ」
「そうです!私が殺されます!さあ!YESかNOかハッキリ言葉に出して言ってもらいましょう!ん…?今私を殺すって言いませんでした?」
その様子を噴水の影から慎二と椎奈が覗き見ていた。偶然遭遇した二人は内緒で覗き見することにしたのである。
「うわ。やべーことになってんな。」
「諸星先輩、どうするんでしょうね。というか慎二先輩は野球部大丈夫なんですか?」
「ああ、三年生はかわいそうだけど仕方ねぇよ。インフルエンザが蔓延しちまったわけだし。俺は来年ある。だから最後の最後にドカンとやってやるさ。俺より椎奈ちゃんは膝の具合どうだ?化膿してないか?」
諦めないその力強い目に、心配する優しい目に、椎奈はぞわりと言いようのない感覚に襲われていた。
「だ…いじょびです。あの、だったら練習再開されるまで夏休み暇なんですよね」
「ん?おう」
「私と古書店巡り…手伝ってくれませんか。」
「お…おう…おれでよけりびば」
そんな二人を差し置いて、善達も佳境を迎えていた。
「俺の答えは、今日出す。だから二人を呼んだんだ。」
静寂。そして数秒の後に善は葵の前に立った。それが翔子の敗北だと一目で分かることであり、静かに涙していた。
「葵さん。これ、受け取ってくれるか」
手渡されたのは金細工で作られた小さなフナムシが飾られた、シンプルで可愛いネックレスだった。
「こ、これって」
「葵さん、好きだ。俺と恋人として付き合ってほしい。」
「はいっ…!」
「ぶぁあああ!くやしいいいい!!ああああん!」
泣き崩れた翔子の元に顔の赤い慎二と椎奈がやってきた。見てたなコイツらと善と葵が睨むが、翔子の気持ちを汲んで言わなかった。
「翔子、行こう。頑張ったな。」
「うああああんお兄ちゃあああああん!!でも私寝取られってのも調べたからそっち系で頑張るもんー!!!」
「ちょっと翔子ちゃん。諦めが肝心だよ。」
「うっさい!お兄ちゃんといい感じの雰囲気になりやがって!あーーーーーん!」
「そんなんじゃ…ないし」
「なぁ諸星。」
「ん?」
「ケジメ、つけたな。」
「ん。」
二人は握った拳を合わせ、にやりと笑った。
「でも兄としては妹を傷つけたお前を許さん!!明日回転寿司奢れ!」
「ざけんな!」
「ダメよ。明日は恋人としての初デートで港の水揚げを見に行くんだから。朝4時に。」
「早すぎだろ!?」
「じゃあそのあと私とデートしてもいいじゃないですかあああ!!」
「話をややこしくするな!」
「慎二先輩は私と古書店巡りの予約があったはずです。数分前のこと忘れたんですか。さいてー」
「えっ、いや、明日なの!?日程聞いてないけど俺!?」
こうして俺と葵さんは付き合うこととなった。周りは騒がしいことに変わりはないけれど、楽しい夏になりそうだ。
終わり
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