2章「ワタシノモノ」
第11話「ワタシノユガミ」
夏休みが始まる前。早朝。私は公園でカラスに食い散らかされたカエルを見ていた。
蟻が寄り、分解している。
「働き者ね。清掃員さん。」
この崩れたカエルだった物の姿を"彼"に見せたらどんな顔になって、どんな声をあげるのだろう。
一瞬、私の脳が"彼"を想像して心臓が跳ねた。同時に、口の中に唾液が溢れる。
「ジュ……。ダメよ私。」
唇を舐めなんとか抑えると、道路から声が聞こえてくる。
"彼"だ。
私はスマホの録音を起動し、ポケットに入れ、カエルだった物を持ち上げた。
立ち上がると私の望んでいる"彼"が目に映る。
「おはよう。葵さん。何してるんだ?」
諸星善。私の…。
ああ。もう私は耐えられない。
「おはよう善君。見て、カラスが食べ散らかしたカエルの内臓よ」
さぁ、聞かせて。見せて。
「ェアアアアア!!!!!????」
その叫びに私の臍下が疼く。唾液が溢れる。脳が焼き切れそうになる。抑えなさい私。
学校に着くと、下駄箱の場所で善君が私の手を消毒してくれた。運動部でもないのに、意外としっかりした手に私の目は奪われた。
欲しい。
そして私は美術の課題を思い出した。"自分が魅力を感じるもの"
一足先に美術室へ入る。さっきの感覚を忘れる前に早く描かなくちゃ。
鍵は壊した。
彼があとから到着し、私は手首を描いた。
「手首。葵さんは手首に魅力を感じるのか?」
「いえ?手首に魅力を感じないわ」
嘘は言っていない。別に普通の手首なんかに魅力は感じない。
「頭が痛い。俺、そっちで自分の描いてるからな。」
自分の課題で当たり障りのない犬の絵を描いている彼の手を見つめて私は
興奮した。
こんな手首の絵じゃだめね。
いつか、あれを手に入れる。
手首の絵をぐしゃぐしゃにして私はマチュピチュを描く準備を始めた。
私の歪み。
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