第9話「心霊スポットだよ葵さん」
俺と葵さんは心霊スポットへ来ていた。道を歩んで行く葵さんはいつも通りポーカーフェイス。ほんと神経ぶっこわれてるんじゃないかこの人。
「葵さん、目的地はあるのか?」
「ある。この先」
そう言って葵さんはずっと真っ直ぐ向いている。
「言っとくが俺は幽霊とか心霊現象を信じるタイプだし怖い番組は苦手だけど見てしまうからできれば早く帰りたい。」
「大丈夫。すぐ帰れるから。」
「どんどん登ってて言うことじゃないだろ。」
しばらくして葵さんは喋らなくなった。森は静かで俺達が歩いて枝を踏んだり落ち葉を踏みつける音だけが耳に入ってくるのみ。
「善君。見えてきた」
葵さんが指差した先は開けた見晴らしの良い場所になっていた。くたびれた色褪せているベンチが一つ。何かヤバイ奴がいるのかと心臓が跳ねた。
「なっ、なんだ。」
「座りましょ」
二人で座るとギシリと音が鳴った。壊れるんじゃないかこれ?
「ほら、上見て」
怯えるまま上を見ると、俺の視界は宇宙へと飛び立った。砕けた水晶を夜空に放り投げたかのような美しい星空だった。
「あ…あぁ。」
小高いこの山は登ると街明かりよりも夜空の星からの光の方がよく見えるようだ。
「どう?綺麗でしょ?私のお気に入り。みんな怖がってここへ来ないから特別な場所。」
「いいのか?そんな特別な場所を教えて。」
「いいのよ。善君だから教えたの」
かすかに星空が映るその瞳は水面のように輝いていた。真っ直ぐに俺の瞳を見つめるその瞳は、心臓を止めようとする悪魔だ。
「っ…。卑怯だ。そろそろ冷えるし、虫に刺されるから帰ろうか。」
そう言って俺は立ち上がると、突然ベンチが崩れ落ちた。
「えっ」
ふわりと視界の横で葵さんの体勢が崩れるのが見えた。
「危ない!」
咄嗟に俺は葵さんの腰に手を回して受け止めた。転ばずに済んでよかった。
「あ、りがとう。」
「怪我しなくてよかった。古いベンチだったんだな。壊れかけてたみたいだ。」
「このまま。」
「え?」
「このまま腰に手を添えて帰ってくれる?この秘密の場所を教えた交換ってことで。」
「恥ずかしくて死ぬから無理。」
「拒否権はないの」
次の瞬間、葵さんはどこから持ってきたか縄で俺の右手を腰に結びつけた。胴を回しているからそれ葵さんも苦しいんじゃないのか?と思ったが平然としている。
「さ、おりましょ」
「はぁ。恥ずかしいっ!顔が熱い!葵さん、その縄はわざわざ準備してきたのか?」
「いいえ?さっき壊れたベンチの下にあったの。」
「それって……」
やっぱり葵さんはキモい。
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