第5話「罰ゲームだよ葵さん」


 放課後、家庭科室でいつもの帰宅部(掃除係)の業務に従事していると葵さんが冷蔵庫を漁り出した。


「葵さん?」


「ふふ、冷やしておきました」


 出てきたのは封の開いたチョコレート菓子。学校の備品を私物化してはいけないと何度言われたことか。


「この中には3つのチョコトリュフが入っています。」


「やらないぞ。」


「と言うと思ってもう一人連れてきました。」


 鍵のかけられた準備室から真木が出てきた。


「真木ェ……」


「葵さんにな、家庭科の先生が呼んでると言われて来たら閉じ込められた。部活休みの日だったから油断した。」


「たまには一緒に遊ぼうな。」


「諸星、俺のスマホのメモ帳のパスワードは2501だ。」


「ん?」


「さっき遺言打っておいた」


「ははっ、まさかそんな危ないものチョコトリュフに入れるわけないだろ。な、葵さん?」


「………」


「葵さん?ねぇ、葵さん!?」


「次の方どうぞー」


「「次の方!?」」


 今度は廊下から一人、女の子が入ってきた。


「え、誰!?誰なの!?」


 不安そうに入ってきた女の子は大きなメガネと長い前髪を揺らし、制服についたバッチを見ると一年生のようだ。


「あの…私図書委員の早田椎奈はやたしいなです。一年生です。よろしくお願いします。」


「あ、どうもよろしくお願いします。って、なんで一年生連れてきた?」


「諸星、わかった。これは犠牲者の一人だ。早田さん、今のうちにスマホに遺言を打っておくといい。」


「ど、どういうことですか?私何かされるんですか!?」


「大丈夫だ。最悪死ぬだけで済む。」


「ぴぃ!?」


「さぁさぁ始まるわ。ここに割り箸が4本あります。ここにいるのは四人です。数字と赤い印がついた割り箸を引いたら、その人達は順番に好きなトリュフを選んで食べましょう。」


 唐突な死の宣告。3/4で死ぬなんてクソゲーにも程がある。


「どうせやらないと終わらないんだ。せーの」


 俺、赤1。真木、赤3。早田さん、無し。葵さん、2。


「お〜。ラッキーだな早田さん。」


「何がなんだか分からないんですけど…」


「君は倒れた人がいたら保健室に運ぶ。いいね?」


「アッハイ」


「一番、諸星。逝きまーす。」


 俺はとりあえず真ん中のチョコトリュフを選んだ。


「ん…。うまっ。柚子とオレンジのジェルが入ってる。え、葵さんこれ美味しいぞ!?」


「毒が入ってるなんて言ってないわ」


「んだよもぉ。安心したぜ。葵さん、2番目譲ってくれよ。」


 これが真木の最後の姿になるなんて、俺は思わなかったんだ。


 慢心ダメ絶対。


「はい、真木君。」


「いただきまーす。お、中はクリーミーでプチプチしてる。わかったこれタピオカだ!」


「蜂の子よ。蜂の幼虫。」


 真木は無事に逝った。早田さんは白目を剥いて青ざめている。


「うぇ〜。ラスト、葵さんだぞ。」


「いただきます。」


 葵さんは一口齧ると、口元から離して白い液体が垂れた。なんだかイケナイことを考えてしまい、自分の脳を恨んだ。


「な、なんなんだそれ」


「あっ」


 葵さんは少し驚いて俺の眉間を指差した。何かくっついているのかと上を向いた瞬間。


「えっ?」


「はい、あーん」


 口にチョコトリュフを入れられた。


「んぎぃ!?……あれ、普通にミルク味?だけど。少しアルコール感に、とうもろこしみたいに香ばしい感じ?」


「ウイスキーボンボンみたいなものね」


「じゃあハズレはひとつだけってこと?」


「そう、かもね?」


「これでアルコール度数高かったら大変だったけど。うん、うまいな。」


 早田さんは俺の様子を見て冷や汗をかいている。


「いや、自転車とか乗らなきゃ大丈夫だから。流石にこんな軽いアルコールなら平気さ」


「そ、そうじゃなくて…もしかしてその中身って」


「早田さん」


 葵さんが静かに見つめると、早田さんは静かに黙った。真木を保健室に運ぶため解散すると、早田は図書室へと戻りとある本を手に取った。


「口噛み酒…。原料はとうもろこしや芋…。あの先輩、キモい…」

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