第42話 旅立ちの日

「本当に行っちゃうんだな」


 いくつかの事件を解決し、孤児院やスラム街の再開発も順調に進み出した頃。

 俺はこの街でやるべきことを終えたと、旅立ちを決めた。


「いかないでよぉ」

「ぐすっ」


 ジモティの街の西門には元スラム街の子供たちとその兄姉が俺の旅立ちを見送るために勢揃いしていた。


「ああ。いつまでも俺がここにいると色々と問題が出て来そうだからな」

「問題なんていつもみたいに兄ちゃんが解決すればいいんだよ」


 瞳に涙を浮かべたパレアが、鼻をすすりながら無茶なことを言う。


「パレア。わがまま言わないの。でも、せっかくこの街も良くなってきたのに残念です」

「俺がいなくても、これからはウラニアたちがいるからな。だから安心して出て行けるんだ」


 ウラニアにそう返してから、今度はその斜め後ろに経つディードリアスを見る。

 相変わらずツンデレな態度を崩さずそっぽを向いている。


「あとは任せたぞディード」

「な、なんだよ急に」

「皆と短い間だったけど付き合っててわかったんだよ。この中で俺が居なくなった後、皆をまとめていけるのはお前しかいないってな」

「は? なに言ってんだよ。リーダーはウラニアだぞ」


 あからさまに動揺するディードリアスとは裏腹に、彼の中までアルファンとエンダルは納得顔で頷いている。

 唯一彼の思い人であるウラニアだけがきょとんとしているが、きっと彼女も近いうちに俺の言葉を理解できるようになるに違いない。


「そうよ。私がリーダーなんだから頼って貰うのは私じゃない? だって私よりディードって弱いんだもの」

「ぐっ……」


 ウラニアの何気ない一言が、ディードリアスの心を傷つける。

 しかし確かに現状ディードリアスの実力は四人の中で一番低い。

 それは彼が一番年下で、色々未熟な部分が多いからだ。


「今はな。でもディードが今の努力を続けて行けば近いうちにそれは逆転するって俺は思ってる」

「アンリ! それ以上言ったら殺すかんな!」

「はははっ、この私を殺せるとでも思っているのか、小童」


 俺はわざとらしく両手を広げて魔王ムーブをかます。


「誰の真似だよ、それ」

「魔王?」

「魔王ってそんななのか? って、そんなことより絶対に言うんじゃねーぞ!!」


 ルブレド子爵の野望が砕かれ、彼の息子であるジグスの子守から解放された彼らは、普通の冒険者として活動を続けている。

 主に街の近辺や街道での魔物退治や護衛が任務だが、命がけの仕事をこなした後の彼ら、彼女らの顔は満足感で溢れていた。


 しかしその中でディードリアスだけがいつも不満げな表情を浮かべているのが気になって、俺は打上げのあと毎回一人で早めに帰って行く彼の後を密かにおいかけてみたのである。


「何の話なのよ」


 ウラニアが好奇心まるだしで尋ねてくる。

 だがディードリアスがここまで嫌がる以上は言わない方が良いだろう。


 そう考えていたのだが。


「あたし知ってるよ。ディード兄ィっていっつも帰ってくる度にアンリに訓練付けて貰ってるんだよね」

「ああ、あれな。俺も時々やってもらってるぜ」


 あっさりとパレアとロンゴにディードリアスの秘密の特訓がバラされてしまった。


「へー。あんたそんなことやってたんだ。どーりて最近動きが良くなったと思ってたんだ」

「うむ。昔ならおいらが盾で攻撃を防いでも少し遅れていた飛び出しが、最近はかなり上達してた」

「ボクが回復させる回数も随分減ったもんな」


 秘密をばらされたからか、ディードリアスは無言で俺を睨んでくる。

 だが仲間たちに誉められて嬉しいのか、少し口元が緩んでいるのを俺は見逃さない。


「俺は何もいってないぞ。でもちゃんと皆もお前の成長に気付いてたんだから素直に喜ぶべきだ」

「そりゃそうだけどさ。なんつーかこう言うのってバラされたらかっこ悪いじゃん」

「確かにかっこ悪いな」


 俺が笑うとディードリアスは顔を今度は怒りで真っ赤にする。


「でも、特訓に付き合ったと言っても剣技を磨いたのはお前だろ。なんせ俺は剣についてはド素人だからな」

「それ以外がめちゃ強いじゃねーかよ。どんだけ斬りかかっても剣の方がボロボロになるし」

「だから木刀を作ってやったろ」


 手加減なしで全てを打ち込める動く的としての俺はかなり優秀だと自負している。

 そんな俺に延々と様々な攻撃をし続ければ自然と力も上がっていくというものだ。

 いっそこれを商売に出来ないだろうかと考えてしまったくらいだ。


「最初の頃なんて一撃打ち込む度に手がしびれて剣を落としてたからなぁ」

「言うなって! そういうとこだぞ!」


 どういうとこなんだろうか。

 でもまぁこれで俺がディードリアスを買っている理由は皆に伝わったはずだ。


「来たか」


 未だに何やら喚いているディードリアスを無視して俺は道をゆっくりとこちらに向かって走ってくる馬車に向ける。

 俺の親友であるマーシュの馬車だ。


「お待たせしました」


 俺たちの前にやって来た馬車の御者台からマーシュが降り立つ。


「段差に気を付けて下さいね」

「大丈夫。ありがとうございます」


 そのマーシュに支えられるように降りて来たのは俺の旅の同行者――サンテアだった。




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