第40話 駄女神「殺っちゃったぜ(てへぺろ)」

「鼓膜が破れるかと思ったわ!」


 一瞬だけキーンとなった耳を押さえながら俺は叫び返す。

 これが夜だったら近くの部屋から苦情が来ていたことだろうが、生憎この時間に宿の中にいるような奴はいない。


「すまんかったのじゃ」


 もう少し文句を言ってやろうかと思ったが、さきほどまでの偉そうな雰囲気を潜め、気まずそうに謝罪の言葉を口にするエルラードに俺は気勢を削がれてしまう。


「お、おう」

「じゃが無敵の体を与えたのじゃから、この程度では壊れんはずだった。誤って損した気分なのじゃ」


 しかし反省していたのは一瞬のこと。

 手のひらを一瞬で返した駄女神を本気で殴ろうかと一瞬考えてしまった。


 だが今の彼女の体はサンテアのものだ。

 どれだけムカついても手を挙げるわけにはいかない。


 俺は苛立ちながら「早く話せよ」と、とりあえず俺の死の真相を聞き出すことにした。


「そう急かすでない」


 やれやれと、俺の神経を逆なでするような動きで糞女神はベッドの端っこに座り直す。

 そして真剣な目で俺を見ると。


「話す前に一つだけ約束をしてくれんか?」

「約束? 連帯保証人になれとか言うなら縁を切るが」

「それは約束とは言わんのじゃ。ただお主の身に何が起こったのかを正直に話しても怒らないと約束して欲しいだけなのじゃよ。お願いじゃから……な?」


 サンテアの顔で上目遣いでそう言われたら嫌とは言えない。


「約束は出来ないけど、努力はしてみるよ」


 だから俺はその願いを断らずにそう応えて椅子を引っ張り出して腰を下ろした。


「それで、俺が死んだのはお前のせいだって?」

「そうじゃ。あれは我がお主の世界に遊びに行ったときのことじゃった」


 エルラードは無言で頷くとゆっくりと口を開いた。

 そして俺は自分の死の真相と、この世界に転生した理由を知る事になったのだった。



* * * *



 俺が今居る場所が異世界である以上わかってはいたことだが、この世の中には無数の『世界』が存在しているらしい。

 そしてその一つ一つの『世界』は、イメージとしては無限に広がるだだっ広い空間の中に、まるでシャボン玉のように浮んで彷徨い続けているのだとか。


 そして空間の中をそんな『世界』が無数に漂っていれば『世界同士』がぶつかることもある。


「そうなるとどんなことが起こるかわかるかのう?」

「ぶつかった『世界』は壊れるとか?」

「そんなに『世界』がやわいわけなかろう。『世界同士』が接触したときに起こるのはお主もよく知っておる【異世界転生】【異世界転移】なのじゃよ」


 どうやら『世界』と『世界』が接触すると、『世界同士』をつなげる穴みたいなものが出来るらしい。

 そしてその穴に落ちると別の世界へ移動することになる。


 体ごと穴に落ちた場合は【転移】で、魂だけの場合は【転生】と思って貰えればわかりやすいだろう。


「それで俺はその穴が開いたときにちょうど死んでこの世界に転生したってことか」

「うむ」

「で、その死んだ原因がお前っていうのはどういうことだ? 早く教えてくれ」


 俺は核心について話すようにエルラードを急かす。


「ううむ。その『世界同士』の接触というのはな、この世界では実はかなり珍しいことでな。そのことを知ったとき、我は別世界都やらを見てみたくなったのじゃ」


 好奇心に突き動かされた彼女は、長い間溜め込んで溢れそうになっていた魔力ギガを使って自分の分身を作り意識をリンクさせて俺の元いた世界に送り込んだらしい。


「可愛らしい幼女の姿でお主の世界に入り込んだ我は、この世界とは全く違う文明に浮れてしもうてな」


 向こうの時間で約一週間ほど彼女は持ち込んだ魔力ギガを使い世界中を見て回ったのだという。

 だが『世界同士』の接触はそれほど長くは続かない。


 二つの『世界』を繋ぐ穴が消滅する前に元の世界に分身を戻さないと分身に渡した魔力ギガが消滅してしまうと焦った彼女は、人間には見えないその穴に急いで向かった。


「我も相当慌てておったのじゃ……だから許してくれとは口が裂けても言えんが」


 運命の日の夜中。

 普段から人通りも車通りも少ない道の脇に穴はあった。


 エルラードは今にも閉まりそうなその穴を見て慌てたのだという。


 一週間の旅であっちの世界のルールを大体は覚えていたはずの彼女だったが、急ぐ余り道路を渡るときの注意を怠ってしまった。


 そこに運悪く無茶な残業で疲労困憊になりながら原付で家に帰る途中の俺が走ってきて――


「ああ……思い……出した」


 ヘッドライトの中に突然浮かび上がった、夜中に道の真ん中にいるはずも無い幼女の姿。

 制限速度以下で走っていた俺は、冷静にブレーキを踏めば止まれたはずだった。


 だがその日の俺は連日連夜の残業と無茶な仕事内容に疲労困憊で、冷静な判断が咄嗟に出来ず。


「我を避けようとしたお主はそのままガードレールにぶつかってしまったんじゃ」


 エルラードは自分のせいで異世界の人間を傷つけてしまったことに焦り、なんとか俺を回復させようとしてくれたらしい。

 だけど打ち所が悪かったのか俺はそのまま命を失ってしまった。


「本来ならお主の魂はそのままac地の世界の輪廻へ還るはずじゃった。じゃがお主の魂はちょうど近くに開いていたこの世界へ続く穴に飲み込まれてしまったのじゃよ」


 俺の魂と、それを追ったエルラードの分身が穴を通った直後『世界』は離れ穴も塞がってしまった。

 こうなると魂を元の世界に戻すことは女神であっても無理だった。


 いや、万全の状態の彼女であれば穴を暫く維持させることも出来ただろう。

 だがそのときの彼女は既に異世界漫遊でかなりの魔力ギガを消費した後だったのである。


「お主が死んでしまったのも、この世界に迷い込んで元の世界の輪廻から外れてしまったのも全て我のせいなのじゃ……じゃから我は残っていた魔力ギガを使って、せめてもの罪滅ぼしにお主が望む体を作ってこの世界に転生させたわけじゃ」


 なるほど、そういうことだったのか。


 俺がこの世界に生まれ変わった訳も、このチートな無敵の体を貰えた理由も。

 その全ては女神エルラードの罪滅ぼしのためだったと。


「好奇心に負けて異世界に出向いたせいでお主の命を奪ったのは我じゃ。謝って済む問題じゃ無いのはわかっておるが……」

「……」


 しばしの沈黙が流れる。


 その沈黙に焦ったのだろう。


「もし怒りが収まらぬのじゃったら我を殴ってくれ!!!」


 駄女神はそんなことをいいながらベッドから飛び降りるとジャンピング土下座をかましたのだった。




**あとがき&おしらせ**


駄女神「や・・・殺っちまった・・・やべぇよやべぇよ。せや! ワイの世界で生き返らせて許して貰えばええんちゃうか? 33-4な蒙古魂を感じるで!」


 というわけでギガを使い切った駄女神はポンコツと成り果てたのでした。


 因みにドゲーザは異世界漫遊の時に覚えたっぽい。


 さてこの物語も多分残すところあと数話。

 何かしら進展があれば第二章もあるかもですが一旦切りの良いところで終了予定です。


 とりあえず後書きで色々この物語について語ったり読者様への感謝をかたったりは最終回に回すとしておしらせに続きます。


<<おしらせとか>>


今作が終わるのに合わせて新作を開始しました。


鬱ゲーのモブ村人に転生した俺は【禁断の裏技】でハッピーエンドを目指します~モブだからレベルキャップなんてあるわけない!~ https://kakuyomu.jp/works/16817330649406457786


自身としては初のゲーム転生ものとなります。

方向性としてはこの無敵に近いノリを目指してますので、この作品が気に入って貰えた読者様は、そのまま鬱ゲーモブの方もブックマークしていただけると嬉しいです。



続いて商業作品についてのおしらせです。


カクヨムでも連載中の放逐貴族の書籍版が先月末頃発売されました。

そして明日11月11日には電子書籍版が各種サイトにて配信開始となります。


『放逐された転生貴族は、自由にやらせてもらいます』 アルファポリス


イラストはヨヨギ先生という素晴らしい方に担当していただきました。


一巻の売り上げで全てが決まってしまう世界なので、もし余裕がありましたら購入いただけますと幸いです。



そして本日『水しか出ない神具【コップ】を授かった僕は、不毛の領地で好きに生きる事にしました』の文庫版第三巻がアルファライト文庫様より出荷開始となりました。

書店に並ぶのは明日以降で通販サイトでは14日頃配送となっています。


漫画版が大好評なこの作品ですが、この文庫版で累計14万部を突破いたしました。

どんな内容か気になるという方はまずは漫画版をどうぞ。

担当していただいている則本ちまき先生は別ペンネームでもヒット作を画かれていらっしゃる素晴らしい漫画家様です。


そして原作を読んでみたいと思った方にはリーズナブルな文庫版をオススメいたします。


それでは宣伝が長くなっちゃったのでこのあたりで締めます。


残りわずかですが、無敵な物語を非木津月最後まで応援して下さいませませ。


それでは最後に駄女神さんに〆の言葉をもらいましょう。

どうぞ!


駄女神「ええっ! なんじゃその無茶振りは!? 聞いとらんぞっ。ああ、えっと、その、なんじゃ……ろ。ああああああああっ!!! 我、人前に出ると緊張しちゃうのじゃっ!! そんなに見つめられたらまたドジって殺っちゃうのじゃー!!!」


不穏なことを言い出したのでこれにて終了。


乙した!

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