第38話 これが神オーラ!

「やっぱりあの駄女神には勿体ないくらい立派な教会だな」


 子供たちと暫く過ごしていたが、一向にサンテアが帰ってくる気配は無かった。

 仕方なく俺は持って来た料理を先に子供たちに食べておくように言ってからサンテアを迎えに教会まで向かうことにした。


 街の中でも一際高い鐘楼を見上げる。

 結局道中でサンテアとすれ違うことも無かった。


 もしかしたら別の道で帰ったのかもしれないが、中に入ればわかるだろう。

 先に帰ったのならそれはそれで問題は無い。


「さて、入るとするか」


 女神エルラードを奉る教会の中に俺は足を踏み入れる。

 入れ違いになっていなければサンテアはまだこの中にいるはずだ。


「ちわーっす」


 無駄に豪華な扉を押し開けながら挨拶をする。

 教会の中に向かってする挨拶として『ちわーっす』ってのはどうなんだと思わなくもないが、初戦あの駄女神の教会である。

 変に畏まる必要も無かろう。


「……あれ?」


 だが俺の気軽な挨拶に帰ってきたのは沈黙だけであった。


 おかしい。

 いくらあの駄女神の教会とはいえ、前回来た時にはそれなりにお祈りに来ている人もいたはずだ。


 俺は恐る恐る開いた扉の隙間から中を覗き込む。

 すると――


「なんだ……あれ?」


 まず俺の目に飛び込んできたのは教会の床に伏せ、頭を下げる十人ほどの人々の姿だった。

 その中には神父やシスターの姿も見える。


 一体何が?


 そう思った俺がゆっくりと視線を上げていくと。


「サンテア?」


 真っ正面にある以前見た時と変らない神々しい女神像。

 その足下に俺の探し人の姿があった。


「何やってんだ、あいつ」


 サンテアは女神像の足下で他の人々のようにひれ伏していたわけではない。

 むしろ天窓から差し込む光の中で大きく手を広げ全てを包み込むような慈悲の笑顔を浮かべている彼女に向かって教会の中の人々はひれ伏している様に見える。


 いや、まちがいない。

 彼らは女神像ではなくサンテアに向かってひれ伏しているのだ。


「まさか」


 俺は教会の中に足を踏み入れると、ひれ伏す人たちを踏まないように一気にサンテアの元まで駆け寄った。


「おお、アンリヴァルトではないか」


 さすがに近くまで来たところで俺に気がついたサンテアが口を開いた。

 しかしその声音はいつも効いていた彼女のものでは無く――


「やっぱり、お前。駄女……エルラードなのか?」


 その声は何度か聞いた女神の声そのものだったのである。



「ダメ? よくわからんが我は女神エルラードじゃ。久しぶりじゃなアンリヴァルトよ」

「ああ、久しぶり……って、そうじゃねぇ! どうしてお前がサンテアの体を乗っ取ってんだよ!」

「乗っ取るとは人聞きの悪いことを言うでないわ。訳あって憑依させて貰っているだけじゃわい」

「それを乗っ取るって言うんだよ」


 俺はそう叫びながら教会の中を指さす。


「あとこの人たちに何をしたんだ?」

「何もしとらん。此奴らは我の敬虔な信徒じゃから我の余りの神々しさにひれ伏しておるだけじゃ」


 神々しい?


 確かに今の彼女からは不思議な気配を感じる。

 だが俺に感じるのはそれだけで、別にひれ伏そうなんて思いは子れっぽちも浮んでこない。


「どうやらお主には我の神オーラは通じてないようじゃな」

「神オーラってなんだよ? あ、言わなくて良い。どうせろくなもんじゃないだろうし」

「酷い言い草じゃな」


 とにかくその神オーラのせいでこの人たちはひれ伏しているらしい。

 そして俺はたぶん無敵のおかげでその影響を受けないでいられるのだろう。


「とにかくだ。さっさとサンテアの体を返せよ」

「久々の再会だっていうのにつれないのう。この前は我に会いたいとこの教会で祈りを捧げておったくせに」

「っ!? やっぱ通じてたのかよ。だったらなんで返事しなかったんだ?」


 こちらからの声が聞こえていたなら返事くらいしろと。


「前にも言ったじゃろ。ギガが切れて無料通話が出来なくなったと」

「課金しろ!」

「いいんじゃな?」

「は?」

「課金しろとお主が言ったんじゃからな。あとで文句言うなよ?」


 俺は駄女神の態度に一気に不安になってしまった。

 もちろん少しすれば平常心に戻ってしまうわけだが。

 この不安感は大事にしなければならないものではないか?


「いや、ちょっとまってくれ」

「待てぬ。我が敬虔な信徒サンテアよ。我が半身であるアンリヴァルトの命によりお主と契約を願う」

「契約? 俺の命令? そんなこと俺は一言も」

『はい女神様。私はその契約を受け入れます。いえ、受けさせてください』

「今の声はサンテアか? おい、勝手に契約なんて結んじゃいけないっ! 詐欺だったらどうするんだ!」


 俺はサンテアの両肩に手を置いて前後に揺さぶって契約を止めさせようとする。

 だが彼女は楽しそうな、嬉しそうな表情を浮かべながら俺の手の上に自らの手を重ねるとこう言った。


『アンリ様、これは私自身の願いを女神様が聞いて下さったのです』

「サンテアの願い?」

『はい。これで私はアンリ様と――』


 がくん。


 突然サンテアの体から力が抜け、俺にもたれかかってきた。

 慌てて俺は彼女を抱きしめるとその耳元へ呼びかける。


「おい、駄女神っ。これはどういうことだ」

「誰が駄女神じゃ! 安心せい。この娘は我との契約をしたことで一時的に魔力が枯渇してしまっただけじゃ」

「それって大丈夫なのか?」

「大丈夫じゃ。半時間ほどすれば目覚めるじゃろうて」


 よかった。

 俺のせいでサンテアに何かあったら彼女や子供たちにも顔向けできないことになっていただろう。


 だが、かといってこれで万事解決というわけではない。

 俺はエルラードが宿ったサンテアを抱きかかえると教会を飛び出した。


 早く詳しい話を聞き出したいとは思っていたが、あれだけの人の前で話す無いようでは無さそうだと判断したからだ。

 あの様子からすると神オーラとかいうやつの力で彼ら、彼女らには声が届いてなかったかも知れないが、衆人環視の中ではこっちが気になって仕方が無い。


「取り敢えず俺の宿の部屋へ行くぞ」

「我、男子の部屋へ連れ込まれてしまうのか。貞操の危機じゃ」

「ふざけたこと言ってんじゃねぇ!」


 俺は馬鹿なことをのたまい続ける駄女神と宿に着くまで不毛な漫才を繰り広げることになったのだった。





****あとがき?***



 ついに駄女神降臨!


 サンテアちゃんを返せ!!


 さて、みなさん

 契約書にサインをするときはきちんと隅々までチェックしてからにしましょうね


 そうしないと体をのっとられちゃうゾ!


 という冗談はおいといて、先々月から更新も新作も書かずにずっと作業していた書籍のうち一冊が今月中旬ごろ遂に発売されます


 カクヨムで★1000越えした放逐貴族がアルファポリスより『放逐された転生貴族は、自由にやらせてもらいます』というタイトルで出ちゃうんです


 ネットで予約はまだ始まってないかもしれないけど応援よろしくね★


 しかしこの無敵も書籍化のお声がかからないものか・・・

 カクヨムコンだと読者選考があるので期間的に合わないから応募しても意味が無いんですよね


 とか愚痴ってる場合じゃない


 とりあえず更新出来ない間に必死でお仕事した作品は他にもあるので、近いうちにご報告出来たらなとおもっております


 それでは次回!


 カラダDAKARA返して女神様!を乞うご期待!

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