第37話 よぉ! 久しぶり!

「よぉ、みんな! 久しぶり!」


 スラム街のボロ屋。

 その扉を開いて俺は開口一番片手をあげてそう挨拶をかます。


「あっ、兄ちゃん!」

「もうっ。最近街でも見かけないから心配してたんだよ」

「待ちの外に毎日出かけてるって聞いたけど、どこ行ってたの?」

「ずっと待ってたのに」


 ロンゴ、パレア、ランラにニア。

 初めて会った時とは比べものにならないほど血色が良くなり身ぎれいになった孤児たちが出迎えてくれる。


「すまん、すまん。ちょいと森に色々なものを取りに行ってたんだ」


 ここ数日の間、俺は街の外の森に出かけてピョン吉の餌や、これからのこの街に必要になりそうな素材を集めていた。

 特にこのあたりでは魔瘴の森でしか取れないような稀少素材や魔物のあれやこれやに関しては俺がこの街からいなくなれば手に入れるのが難しくなる。

 そうなるとサンテアのときのように薬が作れなくなることも出てくるだろう。

 だから俺はあの町医者から色々聞き出して魔瘴の森で採れるだけの素材をかき集めてきたのである。


 因みに魔物素材などはルブレド子爵とマーシュに、それぞれ街の改革や孤児院の経営などで必要になったときにギルドを通して売却するようにと預けてきた。

 マーシュは既に慣れっこになっていたのか、俺が貴重な素材を手渡しても特に面白いリアクションは無かったが、ルブレド子爵は改めて俺の異常さに顔を青ざめさせていた。


「いろんなものってなんだよ?」

「いろんなものはいろんなものだ。それよりもサンテアはどこに行ったんだ?」


 ロンゴに一つ一つ説明しても意味は無いので適当に誤魔化しつつ、俺は話題を変える。

 さっきから気になってはいたのだが、家の中にサンテアの姿が見当たらないのだ。


「サンテア姉ちゃんなら教会に行ったよ」

「教会? またなんで」


 死の茸デスマッシュルームを使った薬のおかげで、すっかり元気になったサンテアは、最初こそ子供たちの先頭になって、こちらが心配になるくらい張り切ってスラムの改革を手伝っていた。

 だけど彼女たちが兄、姉と慕っていたウラニアたちが戻ってくると今までのしっかりした彼女は一気にとろけて甘えん坊の女の子に戻ってしまった。


 サンテアはお姉さんとしてしっかりした風に見えて、まだ十歳そこらの女の子である。

 ウラニアたちがルブレド子爵に連れ去られてしまったせいで一番の年長者として振る舞わざるをえなかっただけで、本来はまだ甘えたり無い子供なのである。


「姉ちゃん、なんだか朝からおかしかったのよね」

「うんうん。頭の中で声が聞こえるとか」

「神様が呼んでるとか言ってたもんね」

「怖かったー」


 神……教会……なんだろう、嫌な予感しかしない。


「わかった。後で俺も教会に行ってサンテアの様子を見てくるよ」


 俺は一瞬頭に浮んだ嫌な予感を振り切るように頭を一度振ってから持ってきた荷物を台所の机の上に置く。

 中には食料以外にも簡単な医薬品から子供たちの服や下着などが詰まっている。


 すでにルブレド子爵による改革によってスラム街には十分な食料や医療の支援は行われている。

 なので俺がいちいち持ってくる必要は無いのだが、最後に子供たちの笑顔が見たいと思って大量に買い込んでしまったのであった。


「うわぁ。ドレスみたい」

「これ貰っていいの?」

「すげぇ。新品の靴だぜ」

「かぼちゃぱんつー」


 机の上に並べたものを手に取って大はしゃぎする子供たちを見て、俺の心は満たされていく。

 だが同時に寂しさも募っていく。


「ところでお前ら、引っ越しの準備は出来ているのか?」


 俺はボロ屋の中を見ながらそう尋ねる。

 子供たちは孤児院側の受け入れ準備が整い次第この家から孤児院へ移り住むことが決まっていた。


「準備ったって、なぁ」

「あたしたちの荷物なんて鞄一つくらいしか無いからすぐだよ」


 そうか。

 この子供たちはそういう環境でずっと生きてきたのだった。


 俺が言葉に詰まっているとパレアが不安そうな声で質問を口にする。


「でもさ、あたしたちがいなくなったらこの家はどうなんの?」

「それなんだが、ここはウラニアたちに任せようと考えていてな」

「お姉ちゃんたちに?」


 スラム街の建物はこの家だけで無く他もほとんどがまともに修繕されずに使われていたためボロボロになっている。

 今回の計画ではその中でも特に酷い建物に関しては立て直しをし、修繕出来るものは修繕することでスラム街を普通の街に変えていく予定になっていた。


 そして子供たちが住むこの家は前者である。


「ああ。あいつらもルブレド子爵の子飼いじゃなくなって普通の冒険者としてこれから活動していくからな。それならこの家を建て直してそこを拠点にすれば良いんじゃないかって俺が提案したんだよ」


 子供たちが孤児院で働けるようになるまで教育を受けたあと、またここに戻ってきてウラニアたちと共に冒険者になってもいいし、商人や医者、料理人の道を目指してもいい。

 そもそも孤児院に馴染めなかったらここに戻ってきても構わない。


 きっとウラニアたちなら優しく受け入れてくれるだろう。


「そっか。お姉ちゃんたちがここに住むんだ」

「よかった。それならいつでも遊びに来れるね」


 自分たちの家が誰か知らない人の手に渡るかも知れないと思っていたのだろう。

 子供たちの顔に安堵の色が広がり、笑顔が浮ぶ。


 俺はそんな子供たちの顔を見ながら、この街で自分がやれることは全て終わったことを確信したのだった。





**** 約二ヶ月ぶりのあとがき


今回もカクヨム直書きのあとがきを始めよう。


というわけで約二ヶ月ぶりの更新となってしまいましたな。


いやぁ、当初は一月くらいでなんとかと思っていたのですが、書籍の作業とか色々複数重なってしまったので脳みそが連載作品を書くように切り替えられなくて。


なんせ脳みそシングルタスクなもんで。


とりあえずやっと一段落したので、この作品だけは区切りまで書き上げようとキーボードを叩き始めることが出来たぜ! やったー! すごーい!


というわけで頑張った成果物は今年中にポポポンと発売されると思うのでよろしくお願いいたす。


今年か・・・気がつけばもうすぐ一〇月ですよ。


大晦日が昨日のように思い出され・・・はしないな。

昔と違って今の大晦日から正月って平時となんも代わり映えしないもんね。


知ってます?

昔って年末年始はどこもかしこもお店は閉まっていて、コンビニもないのでクリスマス過ぎたら年末年始用の買いだめをしてたんですってよ。

しかもTVもほぼ全部の局が一二月三一日の夜から元旦の朝まで『ゆく年くる年』っていう同じTV番組を流してたって。


ナウなヤングなわたくしは令和生まれなんで知らないんですけどぉ。


まぁ日本中が初詣の神社仏閣系以外はお休みを満喫してたと考えると、その頃の方が良かったのかも知れないかもかも。

なんだか日常と違う特別感もアリアリですしねぇ。


というわけでまだ九月なのに大晦日の話をしながら今回は終わりますぞ。


次回もなるはやで更新したいとは思ってますが、大宇宙の意思次第となります。

それでは。

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