第35話 もしもし女神様?
「ここが教会か」
街の中にある建物の中でも一際高いその建物は俺も遠くから見た記憶があった。
たしか天辺に大きな鐘があって、朝昼晩の三回時を告げる鐘を鳴らしている場所だ。
「時計塔じゃ無かったのか」
真ん中に高い鐘楼を持つその建物は中々にそれっぽさを醸し出している。
正面の大きな扉は大きく開かれており、街の人たちが何人か出入りしているのが見えた。
マキエダの話によると朝の鐘から夕方の鐘が鳴るまでの間、その扉は常に開かれていて誰でも自由に女神像を礼拝することができるらしい。
「女神像?」
「はい。教会の中には立派な女神様の像があるのです」
女神様の像か。
そういえば俺は女神の声は聞いたが姿は見ていない。
今まで勝手にだらけて鼻をほじり尻を掻いて寝ている姿を想像していたが、良い機会だしその姿を拝ませて貰おうか。
「といっても本物の姿じゃないんだろうけどな」
「何か仰いましたか?」
「いや。その女神像を作った人って本物の女神様に会ったことがあるのかなって思ってね」
「さすがにそれは無いと思いますが、古より伝わる肖像画をモデルにしておりますので」
「だよな」
「ですが、その肖像画を描いた絵師様は本当に女神様にお会いして描いたのかもしれませんし」
女神が封――眠りに付いたのは遙か昔のことらしい。
なので誰も彼女の姿を見たことが無いのは当たり前だろう。
「とりあえず俺は教会の中を見てくるよ。マキエダは子爵のところへ行ってスラム街改革計画を進めておいてくれ」
「はい。それでは私はこれで」
去って行く馬車を見送って俺は教会へ足を向けた。
大きく開かれた扉から中に入ると幾分ひんやりとした空気が頬を撫でる。
天井の明かり取りの窓から差し込む光に照らされたそこは厳かで美しく。
左右に幾つも並んだ長椅子には思ったより多くの人が座って祈りを捧げていた。
「冒険者の街だから神様とかに祈る人は少ないと思ってたけどそうでも無いんだな」
もしかすると女神が魔力を司ると言われていることと関係があるのだろうか。
目を閉じて祈りを捧げている人の格好を見ると魔法職らしい人が圧倒的に多い。
「さて、それじゃあ女神様の姿を――」
俺は天井から差し込む光と、明るいところから突然薄暗いところに入ったせいで見えづらくなっていた女神像に目を向けた。
「ほぅ」
溜息が出た。
左手に魔法の杖らしきものを持ち、右手に魔導書を開く美しく神々しい女神像の姿に思わず俺は立ち止まり見惚れてしまう。
薄衣を身に纏った肢体はなまめかしさよりも静謐さを漂わせ、よこしまな気持ちを起させない。
この像を造った彫刻家の女神への信仰の強さを否が応でも感じてしまう。
「いやぁ……この姿であのしゃべり方だったらギャップが酷いよ。やっぱり別人かな?」
誰にも聞こえないように注意しつつ、俺は女神像を見上げながら呟きながら近づいていく。
別人なら別人で構わないけど、とりあえずもしかすると本人に通じるかも知れない。
「さて、どうやったらいいのかな。とりあえず祈ってみるか」
俺は女神像の前に設置された参拝台に乗って適当に両手を合わせると目を閉じる。
そして頭の中で祈りを捧げた。
『あー、女神様女神様。今貴方の心の中に話しかけています。というか俺が心の中で話しかけてます。聞こえているなら返事をして下さい。聞こえてないなら聞こえてないと言って下さい。じゃないと女神様はこんな美人じゃ無くちんちくりんの幼女だと言いふらします。しらんけど。あと女神様はこの国で邪神扱いですよ』
俺は暫く目を閉じたまま返答を待った。
だけど。
「そう都合良く行く訳無いか」
結局女神からの返事は無く。
俺は礼拝台から下りるとそのまま教会を後にしたのだった。
**** あとがきのような何か ****
へんじがない
ただのしかばねのようだ
というわけで女神様再登場(しない)回でした。
本当はここすっ飛ばしてスラム街の再開発話に行こうかなと思ったんですけど、女神様がこの国や街の魔法系を使う人たちにはちゃんと敬われていることを書いておきたかった・・・と言っておけばイイハナシダナーと思われるだろう。
よしよし。
あっ、独り言なんで気にしないで下さいね。
というわけで次回はやっとスラム街に戻って子供たちが出てくる予定です。
そしてメインヒロインのマーシュちゃんや、すっかり宿に放置されたままのピョン吉も出てくる・・・はず。
ピョン吉の活躍を書きたいなと考えつつもなかなかだすタイミングがね。
戦闘があると潰されちゃうだろうし。
しょせんカエルなので。
ドラゴンがカエルに弱いみたいなのも考えたりしたんですけど。
ピョン吉の明日はどっちだ!
それでは次回更新は明日か明後日になるはず。
他のものの進行状況と交通渋滞情報と台風の経路によって変りますがお待ちくださいませ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます