第34話 やっぱ邪神なんじゃね?
「森へお帰り。あの街はお前の住む場所じゃ無いの」
『グギャウ』
魔瘴の森の奥へノッシノッシと歩いて行くドラゴンを見送り、俺は一仕事を終えたスッキリした気分で街への帰路につく。
契約を解除された途端にドラゴンブレスを吐こうとしたので一撃入れてしまったが、おかげで大人しく森へ帰って行ってくれた。
これでもう人里には下りこないだろう。
たぶん。
「しかしマキエダは御者もできるんだな」
「私の名前はマキエダではなく――」
「でもさすが執政官の執事ともなると街の出入りに無駄な検閲が無くて快適だわ」
なんせドラゴンを運んでいたのだ。
馬車の中を調べられたら大騒ぎになっていただろう。
「はぁ……もうマキエダでかまいませんが。貴方様は本当に何者なのですか?」
「ただの旅人だよ」
「魔結界とドラゴンを素手で打ち破る旅人は『ただの旅人』とは言いませんが」
「そんなこと言われてもな。山奥のド田舎から世界を旅しようと出て来た世間知らずのただの田舎者だって言ってるのに、誰も信じてくれないんだもんな」
言いたいことはわかるが女神様に無敵な体を貰ったなんて言っても信じて貰えないだろうし、もし信じたとしたらそれはそれで面倒なことになりそうだ。
「女神教とか出来たりしてな」
なので俺はこれからも適当にはぐらかして生きていくつもりである。
が、ふと思ったのだがこの世界で宗教はどんな形になっているのだろう。
もし
俺は気になって街に着くまでの間、マキエダにこの世界の宗教について聞いて見た。
どうやらこの世界には五つの大陸があるらしい。
そしてその大陸ごとに崇める神が違い、今いるこの大陸ではエルラードという魔力を司る神を崇めているとか。
「エルラード様は魔瘴の森の奥深くで眠られておられると伝わっております」
「へぇ。つまり魔瘴の森が魔力にあふれかえってるのはその神様が眠っているせいって言い伝えられてんだ」
「そういうことですね。そしていつか目覚められた時には……」
「どうなるのさ」
「世界が滅ぶと言われております」
「邪神じゃん!!」
俺は思わず大きな声でツッコミを入れてしまった。
今は眠っていて目覚めると世界が滅ぶってあれでしょ。
封印されし邪神の設定でしょ?
しかもその邪神、多分もう目覚めてるし余計なことしちゃってるけど?
「魔瘴の森の近くでそのようなことを口になされてはいけません」
かなり焦った様子のマキエダを見る限り本当に彼らは邪神のことを実在するものと考えているらしいことがわかった。
「で、その邪し……エルラード様ってのは女神なんだよね?」
「見目麗しき女神様と伝えられておりますが、それが何か?」
見目麗しき……。
実際に見た訳じゃ無いから否定は出来ないけど肯定もしたくない。
「いや、気になっただけさ」
とりあえずこれで俺が何故この世界に転生させられたときにあんな森の中だったのかはわかった。
あの女神は自分の本拠地に俺を放り込んだだけだったのだ。
「ありがとう、勉強になった」
俺はそう言って荷台に寝転ぶ。
荷台にはドラゴンを抑えていた魔結界を作る魔道具が転がっていたが邪魔なので脇に追いやる。
これ一つで家が二軒は建つ代物らしいがどうでもいい。
「それならさ」
俺は寝転びながらマキエダに尋ねる。
「なんですか?」
「街にもその女神様を奉ってる教会みたいなのがあるんだろ?」
「ありますが」
「それじゃあ帰りはその教会の前で降ろしてくれ」
そういった場所であればあの女神と連絡が取れるかも知れない。
獲れたところで何をする訳でもないが、何か用事が出来たときに連絡手段があると便利だろうという程度の話だ。
「わかりました」
「着いたら起してくれ。おやすみ」
俺はそう言って目を閉じる。
目が覚めたら檻の中とか森に捨てられてる可能性も考えたが契約紋で縛られているマキエダにそんなことは出来ない。
まぁ、別にそうされたところで無敵なので問題ないだろうけど。
「ふわぁぁ。ここのところ忙しかったからなぁ」
別に眠らなくても無敵の体に支障は出ないが、こういうときは眠りたくなるのがサガというもの。
がたごとがたごと揺れる馬車の荷台で俺は、その音を子守歌代わりに夢の中へ沈んでいったのだった。
***いつものようなあとがき***
女神は邪神だった!?
いや、しらんけど。
というわけでなんとか週末更新!
活動報告にも書いたのですが、アルファポリスの次世代ファンタジーカップの受賞とか、書籍として発売している『水しか出ない神具【コップ】』の文庫版の発売発表などもあってバタバタしております。
更新が止まっていた理由である仕事はまた別のものなのですが、そちらはまだ終わってないのでしばらくは不定期更新になると思います。
とりあえず無敵については一章があと何話かで完結しますのでそこまでは更新したいなと考えてます。
その後はしばらく他作品の更新と仕事の方に集中することになるはず。
たぶん。
きっと。
それでは次回またお会いしましょう。
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