第9話 魔炎
俺と”ぷわふも”が脳内で対談をしている間に、ハイエルフは明らかに苛立ちを見せていた。
俺が応戦している間に奴の持つ剣は刃こぼれ、切っ先は潰れてしまっている。
奴は剣戟による攻撃の効果が薄いことが分かると、ついに次の一手を繰り出してきた。
「ガリアァッ!(火焔ッ!)」
ハイエルフが右手をすばやく突き出すと、掌の中央から青白い炎が放射状に放たれた。
俺の身体は咄嗟に左へ回避を試みる。
「アイブッ!(ヒィッ!)」
ちょうど俺の背後に陣取っていたエルフ戦士が何匹か炎に巻かれて消し炭になる。僅かに残った脂肪の欠片が、地面の上でプスプスと煙をあげている。
「なんだアレは!魔法ってヤツか? それに巻き添えも厭わないのか奴はッ!アイツら味方じゃないのか!?」
俺はかつて戦友の鈴木に借りて読んだファンタジー作品”年輪物語”に出てきた、名王ガヴロンが使用していた千里眼や死者を自由自在に操る術「魔法」を思い出していた。
「いや、恐らく奴は今の”ぷわふモード”のスピードに追い付けていないのだ。だから味方に被害が及んでしまった…しかしあの炎はかなりの脅威。摂氏1500℃は超えるだろうね。」
「1500℃?正気か…?奴も一介の生物に過ぎんはずだろうが…それともこの世界の生き物はあんなモンをポンポン出せるもんなのか?」
「うむ…僕もあの現象については情報不足なのだ…。正直なところ、君に”入る”前の記憶が曖昧なのでね」
「このポンコツがッ!」
俺は会話の中でぷわふもに悪態をつくが、最早コイツと俺は生命活動を共有する運命共同体である。
そのため、俺はぷわふもとこの状態を切り抜けなければならない。
明日を生きるために―。
「ハブラメティヌコァ…ヴァガァ!(雑魚どもは下がっていろ…伯父貴!)」
ハイエルフがジリジリと俺の周りを移動しながらそう叫ぶと、生き残った一般エルフ戦士の中でも最年長と思われる老エルフがたっぷりと蓄えられた髭をさすった後、右手に握った剣を目の前に掲げる。
「ガリァベルェ…(灰燼…)」
老エルフがそう唱えた途端剣が白く光り、周囲の景色が蜃気楼のように歪む。同時に地面からは蒸気があがり、一般エルフ戦士達の周りを一瞬で包み込んだ。
「煙幕か…逃げられちまうな…」
俺は残念な気持ちと、目の前のハイエルフとの戦闘にのみ専念すればよくなったことへの安堵の気持ちを同時に抱いた。
そして…この時あることに気付くのだった。
「俺…奴らの言ってることが理解できるんだが?」
「ああ…そうだった、僕は翻訳できるみたいだね彼らの言葉を」
「てめぇ、それ早く言えよ」
さも当然のようにそう嘯くぷわふもに俺は殺意を感じずにはいられないのだった。
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