第8話 ぷわふモード
「そう、闘うんだ...山田くん!!」
声がそう俺に呼びかけてくる。
しかし、この視界...まるで映画でも観ているかのようだ。自分の意思で手足を動かしているわけではないのに、身体がハイエルフを迎え撃っているのだ。
奴が繰り出す高速の
ハイエルフは先程仕留めたはずの獲物が未だ闘志を失っていないことに少し驚いているようだった。
俺の変化はそれだけではない。
いつの間にか、剣で突かれた時から感じていた喉のあたりを巡る猛烈な熱さも消えている。
先程の声は幻聴の類いか?高ストレス下においては、人体は精神の安定を図るために様々な策を講じる。
そうだ、これもその一つに違いない。
だが、あいにく俺はこういったケースを想定した訓練を嫌というほど受けてきた。
俺が所属しているJNDF(Japan National-Defense Forces)の隊員達は、尋問を受けたり負傷したりした際のメンタルコントロールを叩き込まれる。
だから大丈夫...大丈夫な筈だ。
「なんだこの野郎!?俺の思考に介入しやがってぇ!!幻聴のクセに調子に乗るんじゃなぁい!!」
俺は唐突に、脳内のエセタルパにそう命じた。
「随分な言いようだね?山田くん。君は今絶対絶命。闘いの行方は僕にかかっているのだ」
俺の主張に対し、声の主はそのように返してきた。
えぇ...幻聴なのに会話が出来るのか。俺は当然困惑した。
しかしこの声...どこかで聞いたことがある。小さなネズミや畜生たちと飼い主らとの日常を描いたアニメ作品...確かうろ覚えだが「
この声は、その主人公ボム太郎のものにそっくりなのだ。
「ああ...君には僕の声がボム...ボム太郎?のように聞こえているんだね。僕は生体型記憶集積媒体ぷわふも、気軽に(ぷわふも)と呼んでいいよ」
「はぁ?ぷわふもぉ!?..,こんなふざけた事になっているのはお前のせいだ!どうせ潜在意識か何かだろうお前は?さっさと大脳辺縁系にでも引っ込んでくれ」
この脳内会話の間にも、ハイエルフは多彩な技を繰り出してくる。
にも関わらず、俺とぷわふもは対話を続けた。
「今君が生きていられるのは僕のおかげなのだ。僕がいないと君は息も出来ないのだよ?感謝こそすれ、消えろと罵倒される筋合いはないね」
「な..,何?」
俺の思考は刹那停止した。氷を背中に当てられたような感覚が走る。
「貴様...まさか、あの触手か?森の中で俺に入ってきた...肉塊。」
「ひどい呼び方だなぁ山田くん、僕にはぷわふもというちゃんとした名前があるのだ」
ぷわふもは耳障りな声でさらに続ける。
「現在、君の呼吸に関する部分と循環器系の一部、つまり心肺機能の大部分は僕が代わって機能させているのだ。この世界の大気は君の体にとって最適ではないし、すぐに息切れしてしまうから。あと君とこうして会話が出来ているのは、僕が君の前頭前野や海馬に浸潤しているからなんだ。今は身体強化を施している...さしずめ、ぷわふモードといったところか...山田くん、状況は理解できたかな?」
「嘘だぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
俺はぷわふもの言葉の大半を信じてはいなかったが、いくつかの点(心肺機能の強化や幻覚と考えていた肉塊の襲撃など)が符号していることに対して悲嘆に暮れた。
一方で業を煮やしたハイエルフは、次の手を繰り出そうとしていた...。
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